声を漕いだら《完結済み長編》

※現在仮公開中です。後々レイアウト、文章修正など入ると思います。

我が家の生存ifの内容が含まれます
・原作程度の残酷描写
・話の進行上お名前のあるモブと鬼が出てきますので苦手な方はお控え下さいませ。

◆あらすじ◆
鬼殺隊、階級《甲》の隊士である錆兎と義勇は鬼子母神信仰が根付いている村へと調査に向かう。
そこでは、赤い風車と共に子を神に捧げるといった奇妙な風習が古くから続いていた。
次期水柱と期待されるも、その重圧と自身の未熟さに苦しむ義勇。
一方で最終選別の際に負った後遺症を患いながらも、友を一番近くで見守り続ける錆兎。
村の調査を通し、互いに異なる困難を抱えた十七歳の鬼狩りたちは、それぞれのやり方で自身が信じる道を歩もうとしていた。

序章

  • 序章

     どこからどこまでが己の身体の境界線なのかすら、もはや曖昧だった。 四肢がバラバラになったような激痛に、目を開き続けることすら困難な疲労感。 太陽が昇る直前、あの鬼が刻まれた傷口から血を吹き出させながら自らの巨体を引き摺り、慌てて木々の奥に…

一章

  • 一章 01

     男は風呂敷を抱き締めながら、ずっと泣いていた。 ごめんよ、ごめんよ、と繰り返す惨めな背を風と共に揺れる木々のざわめきだけが責め立てる。 そこはかつて鉱山として村の発展を支えたとも言われていたが、現在は閉山され、山師も去った今では以前の活気…

  • 一章 02

    「へーんな人形。なんだこれ、ウサギかぁ?」「買わんのんなら触るなっちゅうとるやろ」「なんでこんなの売ってんの?」 如何にもやる気のなさそうな、村で唯一の遊具屋を営む店主の周りを少年たちが揶揄いながら取り囲んでいる。店主は手製の木彫り人形や鉛…

  • 一章 03

    「──いやあ、嬉しい。嬉しいわ、久々に筆持つ活力が湧いた。おおきになあ、義勇くん。ホンマ、ド偉い男前やねぇ」 変なことはしないからと如何にも変なことをする奴の常套句で言いくるめられ、気付くと人目のつかない店の裏。男の小さな工房内に連れ込まれ…

  • 一章 04

     茅葺き屋根の簡素な借家。立て付けの悪い引き戸を両手で開けた義勇を出迎えたのは、この村に潜入するにあたり、敢えて剃らずに無精髭を生やしたままの相方であった。 宍色の髪を一つに結んで色褪せた着物を纏い、継ぎ接ぎまみれの布が貼られた窓から用心深…

  • 一章 05

     いつ、自分は妻の元に逝けるのだろう。 迎えが来ると聞いて、数週間ほど待ってもまだ来ない。そんなことを考えて過ごす内に、男は徐々に自分のしてしまったことの愚かさと向き合っていた。 そして、同時に分かったことがある。 迎えが来るまでの、この長…

二章

  • 二章 01

     村にいた時から、肌の表面を撫でるような厭な寒気があった。 だが山へと足を踏み入れた瞬間。あの違和感が、何者かからの視線であったことに気付く。 村を見下ろす、この山に。ずっと、ずっと自分たちは見られていたのだと。 鬱蒼とした山道は、なぜか不…

  • 二章 02

     追い付いた義勇の日輪刀が九郎の首を締め付ける太い縄を断ち斬ると、九郎を引っ張っていたそれは塵となって溶けるように消えた。 引き摺り込む張力から解放された九郎が地面へと叩きつけられる前に、義勇がその身を挺して抱き込むことで代わりに受け身をと…

  • 二章 03

     爆風と共に、砂埃が巻き上げられた。 金属で出来た巨大な牙が床から突き上げるように生え、錆兎は壁を足場として跳躍し、天井の梁を掴むとぶら下がることで躱わす。 しかし、上空で身を翻した錆兎へとしつこく喰らい付こうとする牙は軌道を変えると、断続…

  • 二章 04

     ドブの臭いにも似ている、蝙蝠の糞が放つ悪臭漂う坑道内を少し進んだ先。 転がる大小様々な石塊が行手を阻む中、なんとか歩みを進めていたはずの義勇と九郎は大岩の陰で息を潜めていた。 向こうから聞こえるのは、自分たちではない荒々しい吐息。加えて、…

  • 二章 05

    「……でも、いいんですかね。千代や、あの子たちを勝手に連れ出して……」 子供たちが外に出るための身支度をしている間、九郎が義勇の側に近寄って耳打ちをした。 必要なら、自分はここで子供たちと留まっておきますよと、九郎が言う。「鬼が出るか蛇が出…

  • 二章 06

     視界が白んで、伸ばした手の先までしか見えない。 それほど、高濃度な毒の粒子が、空気中に舞っていた。 この濃度であると常人であれば既にまともに立つことすら出来ず、耐え切れないほどの頭痛に喚きながら、喪われていく四肢の感覚への恐怖で発狂してい…

  • 二章 07

     気が急いてしまいそうになるのを抑えつつ、先頭を歩く義勇は背後の小さな歩幅に合わせて坑道内を進んでいた。 十分道幅に余裕はあるものの、背後からの襲撃時に義勇が横を抜けられるようにと子供たちを二列で並ばせ、最後尾には娘を抱いている九郎を配置し…

  • 二章 08

    「──動かぬ腕でよくぞ、ここまで吾に力を振るわせた」 静まり返った屋敷。あれだけ長く艶のあった鬼の黒髪も、今や老いさらばえて全頭が白く染まっている。 それは、羅刹女が体内に溜め込んでいた鉱石が、もうほぼ残っていないことを表していた。 羅刹女…

三章

  • 三章 01

     鬼は、悲しい存在だ。 師がいつか言っていた言葉を反芻すると、落とした頸が完全に塵となって消えていったことを確認する。 下弦の参が最期、浮かべていた表情から安らぎのようなものを読み取った義勇は、弔うように目を瞑った。 しかし安堵からか全身の…

  • 三章 02

     ──男なら、全てを守れる武人であれ。 これは錆兎の、亡き父の言葉だ。 錆兎を男手一つで育てた父は士族の出身で、陸軍の将校であった。 士族出身の軍人。つまるところ父は武士の家系であり、それだけなら聞こえはいいが士族にも当然上から下がある。 …

四章

  • 四章 01

     正式な水柱の任命式が一週間前に迫った頃。 一足先に退院をしていた義勇は、その日は珍しく隊服ではなく、いわゆる書生服の出立ちで蝶屋敷へと訪れていた。 隊服のまま屋敷内を歩いていると、近頃はすれ違う者に「おめでとうございます」だの何だのと声を…

  • 四章 02

     静かな蝶屋敷の診察室。 小柄な少女が最後に錆兎の手首を触診して心拍数を測り、退院前の検査が終わる。 病歴に何かを書き込むと、しのぶは「相変わらず頑丈ね」と感心しながら呟いた。「あとはここだけ抜糸するから、一週間後に来て。運動程度に動く分に…

  • 四章 03

     消灯後だと言うのに、深い眠りについた錆兎の手を握り続ける人影があった。 自身も重傷を負って入院している身で、祈るように手を握り続ける義勇を見かけたしのぶは、到底叱る気にはなれなかった。 もし、己が義勇の立場で、仮に姉があのような状態で帰還…

  • 四章 04

    「旦那様、冨岡様。お帰りなさいませ、ご無事で何よりで御座います」「ただいま。息災だったか」「ええ、お陰様で」 女中が出迎える式台玄関の前は、いつも藤の花の香りが絶えなかった。 立派な土塀で囲まれた屋敷は、やや小さいながらもしっかりと武家屋敷…

五章

  • 五章 01

     父への報告も終え、着替えた義勇が任務の報告書を認したためている間、修理のため手元を離れていた錆兎の日輪刀がようやく届いた。 今回は単純な刃こぼれではなく破損も激しかったことから、普段より多くの時間を費やしたことに対し、お待たせしてすみませ…

  • 五章 02

     鍛冶師との他愛のないやり取りも湯呑みが空となってお開きとなり、近くの宿まで送った頃には茜色の空が庭のナナカマドをより赤く染めつつあった。 家に戻ってきた錆兎は座布団と湯呑みを片付けてから、義勇が仕事をしているであろう書斎へ向かう。 すると…

  • 五章 03

     どうやら、錆兎は義勇の胸が好きなようであり、目合いの時にはいつもこうして触られる。 直接好きだと言っているところは見たことはなく、聞いてもはぐらかしそうなのだが、確実に嫌いではないだろう。 なぜなら義勇の鍛えられた、ほどほどに厚みのある胸…

六章

  • 六章 01

    「──あの時見つかった子供たちは一般病院で治療を終えてから、それぞれ孤児院に行ったり、そのまま養子などに出たそうだ」 房事の後。 貪るように愛し合い、汗を流してから軽食をとった頃には既に日付も変わっていた。布団の中で身を寄せ合った二人が明日…

  • 六章 02

     錆兎と出会うまでの義勇は、同世代の男児とは乱暴な存在で、怖いものだとばかりに思っていた。 父が亡くなり、長年家に閉じ込められていた義勇を姉が自由にした頃。上手く話せない義勇を町の少年たちが笑い、しまいには背を蹴ったり押されたりなどの暴力を…

七章

  • 七章 01

     快晴の日。 義勇の隊服を彩る金の釦は太陽の下で神々しく輝き、惡鬼滅殺の文字が刻印された青き日輪刀は主のことを誇らしげに見守っていた。 少し冷たい風が頬を掠めていくと同時にお館様の声が降る。薄く柔らかな花弁のように、優しさを湛たたえた不思議…

  • 七章 02

     水柱の任命式を終えて残った柱たちはすぐに次の任務に向かうでもなく、どうやらそれぞれ珍しく時間があるようで軽い近情報告をし合っていた。 少人数だからこそ連携を大切にしているのかと思いきや、耳を澄ませると「あそこの蕎麦屋は美味かった」だの「寝…

  • 七章 03

    「わあ、悲鳴嶼さんだ! 会いたかったです、お久しぶりです!」「しのぶ……元気そうで何よりだ」 鴉から迎えに行くとの連絡があった時から、しのぶはずっとソワソワしていた。 姉たちが蝶屋敷の前に着いた頃、玄関から飛び出してくるや否や一目散に悲鳴嶼…

後日譚

  • 後日譚 01

     言わずと知れた商工業都市、大阪。 経済低迷期や度重なる大火災を乗り越え、かつては水の都と言われた地も今や東洋のマンチェスターなどと呼ばれる通り煙突が林立する工場街からは今日も朝から忙しなく煙が上がっている。 見渡す限りの人、人、人。 人口…

  • 後日譚 02

     新たに柱が来る。 それも、義勇やカナエと同じ年であるらしい。 義勇は何事も顔に出づらいため、感情などを表情から読み取ることは非常に難しかったのだが、今日は心なしか嬉しそうであった。 仲間が出来る。それに、同年代と来た。もしかすれば、友達に…

  • 後日譚 03

     山中などに点在する鬼殺隊の仮設屯所は鬼による襲撃への対策として、短い周期で頻繁に場所が変わることで知られている。 その都度、隊員は現在地から最も近い屯所までの道のりを鴉の誘導を受けて向かうこととなっており、屯所では備品の交換から周知事項の…