煌びやかな装飾品によって飾り付けられた学園内の広大な庭園は宝石が散らされたように眩く、宙には色とりどりの菓子類、そしてキャンドルやぬいぐるみなんてものまでが浮かんでいる。
楽し気な音楽がそこかしこから聴こえ、上級生も下級生も関係なく、今日は日々忙しない毎日を送る学徒兵たちが笑顔で収穫祭を楽しんでいた。
ごく一部の成績上位者にのみ与えられる、一般の寮生とは異なる広々とした個室。
大きな書庫を地下に備えた部屋には二人の魔法使いが暮らしており、玄関には並程度の魔法使いであれば魔術式の解読ですら不可能であろう、強固な結界が張り巡らされている。
家主たち以外で、立ち入ることを許された者はたった数名のみ。その中の数少ない存在である炭治郎と禰豆子は家主の一人、義勇に渡された小瓶の中で揺れる、発光した怪しげな液体を共に並んで不思議そうに見つめていた。
「これは……ええと……なんでしょう義勇さん。すごい光ってますが」
「むー?」
同時に首を傾げる、幼い兄妹。
「俺が調合した防毒効果のある浄化水だ。市販のポーション程度であれば無効化出来る」
「ぼ、防毒剤ですか? 収穫祭ってパーティを楽しむモノなんじゃあ」
「羽目を外し過ぎる奴が毎年いるんだ」
義勇が説明不足なのは、いつものこと。
言葉は足りないが間違っていることを言わない男なので、この浄化水とやらも飲んだ方が良いのは炭治郎も理解していた。だが、ただの楽しいパーティだと思っていた少年からすると、毒だのポーションだのと物騒な単語が多く思わず身構えてしまう。
十一歳になってから魔法学校の初等部へ編入したばかりの炭治郎は入学をする二年前に義勇と出会い、妹共々助けられことがきっかけで先輩と後輩と言う間柄となった今も変わらず親交がある。
ことの発端は、魔法使いの心臓に寄生する鬼と呼ばれる魔物の一種が、妹の禰豆子に取り憑いたことから始まった。
鬼に寄生された宿主は異常なほどに魔力が増加し、やがては抑えきれず理性を失い暴走。
結果として、人を襲う化け物と成り果てる。
そんな存在となってしまった禰豆子から炭治郎を守り、自我を失い暴れる少女を拘束したのが他でもない、学徒兵として「鬼が出た」と言う要請を受け駆けつけた義勇であったのだ。
鬼となってしまった魔法使いのその後を決めるのは魔法局の中核を担う教団であり、拘束された禰豆子は慣例通り魔法局へと連行された。
その後の流れは至ってシンプルで、宿主はまず異端審問へとかけられる。
そして本人に、汝は人であるか魔物であるかを問うというものなのだが、問題はこの裁判で無罪であると言い渡された者が、長い歴史の中でも一人も存在しないと言うことだろう。
それは少女も例外ではなく、異端審問にかけられた禰豆子は教団によって一度は処刑を宣告されたのだった。
寄生体である鬼は古代より恐れられてきた魔物だが、寄生される原因は未だ不明。治療方法も確立されておらず、ただ分かっていることはこの魔物は周囲に伝染する可能性があると言う恐ろしい事実のみ。
被害の拡大を未然に防ぐため、宿主は早急に朝日の元で生きたまま火炙りにするしかないとされている。
鬼に心臓を蝕まれた魔法使いの亡き後は、花すら残らない。けれど症状が初期段階の今、死なせてやれば浄化の炎の中に辛うじて花は残ると。
妹を理性亡き化け物にするか、誇り高き魔法使いのまま尊厳を守ってやるか。
どちらが妹にとって良き判断か、君も兄なら分かるだろう──炭治郎は白い顔に赤い瞳をした審問官に問われ、その問いの意味を幼いながらに正しく理解した。
否と答えれば、鬼に魅せられたとして自分も処刑確定の異端審問にかけられることも。
しかし。
異端審問所に二人の生徒──義勇と、顔に傷のある青年を引き連れた魔法学校の理事を務める産屋敷が現れてから、事態は急変する。
鬼となった少女は、うちで引き取りましょうと言い放った産屋敷の言葉を、炭治郎は最初こそ聞き間違いではないかと耳を疑った。
親類なのか、顔が瓜二つの審問官と理事長はしばらく何かを言い争っていたのを覚えている。けれど一枚上手であったのは理事長の方だったようで、あれよあれよと禰豆子の処刑には執行猶予が設けられ、とりあえずの身柄は軍事組織の一端を担う学園で保護されることが決まったのだ。
去り際、義勇は炭治郎に対して妹の安全は最低限保証されるだろうと言い、けれども兄として妹の側にいたいのなら、お前がこの学園の生徒となることだと告げた。
だが平凡な田舎村の出身であり、火を起こす程度の生活魔法しか使えない炭治郎にエリート揃いの魔法学校への入学などは酷な話というもの。実技はおろか、筆記試験ですら受からないであろうなんてことは、本人もよく分かっていた。
途方に暮れる少年が頭を抱えていたところ、声を掛けてきたのは産屋敷のそばに義勇と並んで控えていた、顔に傷のある青年──錆兎である。
彼は己の師である鱗滝を紹介し、学園生活の合間を縫って炭治郎に自ら稽古をつけてくれた。
基本的な魔力増強訓練、魔術の基礎である四大元素への理解を深めると同時に魔術式読解を学び、加えて箒を用いての飛行訓練と精霊や幻想生物の使役について、エトセトラ。文字通り血を吐くような努力を重ねた炭治郎は二年という時間を掛け、妹の後を追う形で魔法学校の門を叩くに至ったのである。
今では炭治郎の頑張りと周囲からの手厚いサポートもあって、魔力制御装置の役割を果たす口枷は必要ではあるものの禰豆子には学園内でのみ、ある程度の自由が許されていた。
そんな妹のために一人で故郷を離れ、慣れない寮生活を送る炭治郎を錆兎は立派だと讃え、本当の弟のように可愛がっている一方、義勇はと言うと言葉にこそしないが常に兄妹を気に掛けている。
幼さゆえに今日も今日とて上手く結べず、複雑に歪んでいるネクタイを義勇が見つけ、無言で杖を一振り。
するとネクタイはウネウネと独りで動き出し、やがて完璧に結ばれていった。
「あっいつもすみません、ありがとうございますっ」
どうにも結ぶのが苦手で、何度やっても歪んでしまうネクタイを今日も代わりに義勇が結び直してくれていることに少年が気付いて礼を言うと、義勇は「大したことじゃない」と呟いて結び終えてから杖を懐へとしまった。
炭治郎と禰豆子は義勇の端正な横顔を見上げ、どこか嬉しそうに二人してニコニコと微笑む。
小さなことでも、恩人である義勇に気に掛けてもらえることは兄妹にとってはただただ嬉しいことなのだった。
すると玄関のドアが開く音が聞こえ、重みのある足音が続く。禰豆子はハッと顔を上げ、いち早く反応を示した。
「──収穫祭は学園側から多少のおふざけが許されてる祭りだからな。初等部のお前らに変なもん盛るバカはいないと思うが、上級生同士だと飯とかケーキに軽いポーション混ぜたりする奴がいるのさ。しっぽが生えたり声がヒヨコみたいになったりな」
どこから聞いていたのか、いつものように義勇の言葉足らずをフォローするのは、この部屋のもう一人の主人。そして、義勇のバディを務める錆兎である。
「錆兎! おかえりなさい」
「おかえり」
「む~ぅ、う」
「はい、ただいま」
彼は何やら荷物を抱えて部屋へと入って来ると、まずは大きな手で兄妹の頭を撫でくり回し、義勇には目を細めて微笑み掛けた。
もはや日課とも言えるじゃれ合いの後、足元に抱きついて来た小さな禰豆子を錆兎は慣れた手つきでひょいと抱き上げ、持って帰って来た荷物のうちの一つを少女の前に差し出す。
「ほれ、禰豆子。これなーんだ」
鬼化を抑える薬の副作用により、肉体も精神も実年齢よりずっと幼くなってしまった禰豆子の外見は、今や三歳か四歳児ほどまで縮み、精神面に至ってはそれよりも幼い。
幼児にしか見えない今の状態の禰豆子を、身長が高く大人びている錆兎が構ってやっている様子は、歳の離れた兄妹と言うよりも若い父と娘のような微笑ましさがある。
「むー!」
「そうそう。兄ちゃんとお揃いの飾りだぞ~」
正式には生徒でなく保護対象である禰豆子は、生徒たちと全く同じ待遇を受けられるわけではない。
生徒たちが収穫祭に向け、帽子などにつけるカボチャを模った飾りを作っている光景を、少女が羨ましそうに見ていたことも錆兎は気付いていた。
つまり彼はそんな禰豆子のためにわざわざ外へと出向き、他の生徒と同じように可愛らしく帽子を飾れるようにと、今日のため特別に装飾品を用意してやっていた、というわけである。
「わ! えっ錆兎、こんな可愛いの……貰っていいのか? 禰豆子にはおれのをあげようかなって思ってたのに」
「構わん構わん、余ってた庭用の飾りを甘露寺に分けて貰ったんだよ。オレはそれを魔法で縮めて、ちょっと工作しただけ。パーティであの子に会ったらお礼言っときな」
「そうなんだ……錆兎ありがとう、ほら禰豆子。ありがとうは?」
「む~むむぅ」
「よしよし、どういたしまして」
せっかくのパーティなのに子供が我慢するようなことがあってはいかんだろうと、あれやこれやと忙しいだろうに準備している恋人の背中を義勇は見ていた。
抱き上げた禰豆子に飾りがついた帽子を被せてやり、炭治郎には「友達と食べな」と菓子類を持たせている大きな背中を見つめる義勇の表情は柔らかく、こういうところも好きだと、人知れず惚れ直していたりする。
錆兎は出会った時から変わらず、ずっと優しい。
気が利いて察しがよく、それでいてさっぱりとしており恩着せがましくもない。
それこそが義勇がずっと想い続け、好きになった男であった。
「それより、パーティ行く前にその浄化水をちゃんと飲んどけよ。万が一があるからな」
錆兎の言葉に頷く炭治郎。
まだ未成熟な子供の消化器官では、混入したポーションで腹を下したり気分を悪くすることが稀にあるのだと錆兎が説明する。
笑って楽しめるならいいが、腹を下して授業を休みたくないだろうと言う兄貴分たちの気遣いを炭治郎は嬉しく思いながら、聞けば義勇が調合したという薬をなんの躊躇いもなく一気に飲み干した。
「……うっぷ」
けれど、飲んだそばから変なおくびが出そうになり慌てて口を抑える炭治郎。独特の酸味となんとも言えない臭みに取ってつけたような甘さが加わって、お世辞にも美味しいとは言えない風味に思わず顔が青ざめる。
「はっはっは、やっぱ炭治郎でも浄化水はクソ不味いってよ。義勇が調合したやつはまだマシな方なんだけどなぁ」
「む……子供向けにコットンキャンディ風味を足してみたんだが……駄目だったか。大丈夫か?」
「ら……らいじょうぶれす」
屈んだ義勇が幼い炭治郎の華奢な背中を撫で、抱かれたままの禰豆子も心配そうに兄の様子を伺い、口直しのハーブティを錆兎が淹れて差し出す。
ハーブティの爽やかな風味によって口腔の不快感が幾分か和らぎ、炭治郎がひと息つくと部屋のドアの向こうから賑やかに炭治郎を呼ぶ声がした。友人たちの声だと気付き、パァっと少年の顔が明るくなる。
「善逸と伊之助だ!」
「お、来たか。じゃあオレ玄関まで見送って来るわ、禰豆子も下りる気ないし」
「も~禰豆子……今日は部屋を出たら錆兎と義勇さんとはバイバイだからな。兄ちゃんもずっとは抱っこ出来ないし、ちゃんと手つないで自分で歩くんだぞ?」
「んゃ」
玄関へと向かう可愛らしい兄妹に、義勇が「行ってらっしゃい」と声を掛けると炭治郎と禰豆子は同時に手を振った。
義勇が自分の身支度を始めると同時にドアが開いた音がして、炭治郎が迎えに来た友人たちと楽し気に挨拶を交わしている明るい声や、錆兎が子供たちに「気をつけてな」と言っている落ち着いた声までが聞こえ、整った顔には自然と笑みが浮かべられる。
「よーし、オレたちも準備したらぼちぼち行くかぁ」
兄妹の見送りを終えた錆兎が伸びをしつつ、髪を結んでいる恋人の背中に言う。
「義勇も浄化水飲んどくか?」
冗談めかして錆兎が言うと、義勇は肩を竦めて「そんな滅多なものに当たらないんだろう」と返し、今まで当たって来たポーションの類を振り返った。
「経験上、猫の耳が生えたり口から煙が出る程度だ」
昨年はポーションにより猫の耳が生えてしまった義勇だがその姿は案の定可愛らしく、錆兎は心の底から癒されたのを思い出す。
確かに、防毒剤である浄化水を飲むことであれらを見逃す可能性があるかと思うと、非常に惜しい。そもそもパーティに持ち込めるのはただのおふざけポーションなのだから、そこまで警戒することもないだろうと。
こんな時、自分もただの男なのだなあと錆兎は己に呆れたりもするのだ。
「それもそうか」
錆兎は頷き、禰豆子に飾りを作ってやった際の余りで出来たものを、義勇の帽子へとさり気なく乗せてやる。
「……なんだこれ」
乗っていたのは、大小異なるカボチャ。女性と思しき優しい顔のものと、少し泣きそうな顔をしている小さなものを姿見で確認する。
「ちっこい義勇と蔦子さん」
「なんで俺はこんなよわよわしいんだ」
「可愛いだろ? ほら、オレは鱗滝さんと真菰だ」
なんて言いながら、自分の帽子にも可愛らしいカボチャを乗せて見せてくれる錆兎を前に、義勇はなんだか可笑しくなって自然と笑みがこぼれた。
これが、いつもの二人である。
慣れ親しんだ穏やかで優しい時間が過ぎていき、共に用意を終えると錆兎が「行こう」と言って、義勇の手を引き部屋を出た。
今年も楽しい時間が過ごせればいいなと、義勇は錆兎の手を強く握り返し、二人で肩を並べて賑やかな会場へ向かった──の、だが。
「──離せっ、やめろっ!」
時は進み、数時間後。
遠くを見つめる錆兎に腕を掴まれ、不機嫌そうに抵抗する義勇の姿があった。
それは普段の二人からは想像も出来ない姿で、人見知りをしがちな義勇が錆兎にだけ寄って行くことはあれど、彼を拒む姿は一度も見たことがない。
これは、もう見て分かる通り何かしらのポーションの影響であるのは間違いなかった。
パーティ会場の傍では妙なポーションに当たってしまった者が運び込まれる仮設医務室が設置されており、駐在している治安維持委員の伊黒が腕を組みながら、義勇と錆兎のやり取りを黙って見つめる。
「俺に触るな、汚らわしい」
「これは重症だ」
普段は暑苦しいほど引っ付いているにもかかわらず、錆兎に対して吐き捨てるようにそんなことを言う義勇は、どこからどう見ても異常でしかない。
洗脳系ポーションの類だろうか、しかしそんな薬物は非常に高価であり、危険物指定されているため購入の段階でかなり難しいはず。ならば自作ポーションの可能性もあり、そうなってくると成分が不明瞭なため解毒剤のほかに胃洗浄を行う必要も出て来るのだった。
面倒なことに巻き込まれやがってと、伊黒の鋭い視線が物語っているので錆兎も居たたまれない。
「正直、始めて診る効能だ。こうなると検査でもしないと、どういうポーションなのか分からないな……面倒な奴だ全く。柱ともあろう男が、なぜ得体の知れないポーションに引っかかる。妹の方の胡蝶に叱られて来い」
「怒る伊黒は嫌いだ」
「ああ奇遇だな、俺も愚か者は嫌いなんだ」
おおよそ謎のポーションのせいで義勇が口走った「嫌い」という言葉に呆れている伊黒がしれっと便乗すると、義勇は「ひどい、なんでそんなことを言うんだ」とでも言いたげに見事な被害者面をしたので、割って入った錆兎が恋人にこれ以上妙なことを言わせないため「義勇、今はお口チャックな」と喋ること自体をやめさせる。
「いやぁ、なんか配ってたケーキを義勇が貰ってきて……それ食ってから様子が変でさ。オレのことは異常に嫌がるし、さっき伊黒に言ったみたいに「嫌い」とかすぐ言うし。かと思いきや親しくもない奴について行こうとするしで」
「貴様も貴様だ、ちゃんと様子を見ておかないからこうなる、治安維持委員も薬学院も暇じゃないんだぞ」
「それは本当にすまない……」
ごもっともなことを言われ、錆兎は深々と頭を下げるばかり。伊黒の大きなため息の後「血を抜くか尿検査か選べ」と言われ、普段と違う義勇はフンとそっぽを向く。
「どうしてもって言うなら、血をとらせてやってもいいが?」
「義勇、やめなさい」
「分かった。貴様の血管に貴様の尿を流し込む」
「勘弁してやってください」
新手の拷問に取り掛かろうとする伊黒をなんとか宥めて、「もう血を抜いてやってくれ」と錆兎が代わりに答えたところで「あれ?」と明るい声が背後から聞こえた。
振り返れば、罪人の証である腕輪をつけた白橡色の髪をした美丈夫が一人。
独特の雰囲気は気を抜くと引き込まれそうになるほどで、彼が腕輪によって魔力を制限されていてもなお、只者でないということはそれなりに力のある魔法使いであれば誰もが気配で分かる。
「義勇くんと錆兎くんじゃないか。二人してどうしたんだい、パーティ中に。変なポーションにでも当たったのかな?」
優しげで柔らかな声。けれど、どこか感情が伴わない空虚なものを感じる。
おおよそ百年前に起きた、人類による魔法界への何度目かの大侵攻。その際、軍部にも所属していない無名の魔法使いが突如戦場に現れると、数千人規模の人類軍を一夜で壊滅させ、集まった人間の亡骸を素材に異形の人工精霊を次々に生み出したのだと言う。
目の前で仲間の亡骸が耳障りな奇声をあげ、見るに耐えない化け物へと次々に変貌する過程を死ねなかった数名の人類兵たちに魔法使いは全てを見せた。
そして、「どの子が一番美しいと思うか」と男は聞いて回ったと、記録されている。
なぜ戦場に現れたのか、後に行われた裁判で問われた際に魔法使いは言ったそうな。
そこには同族を憂う美しい正義感や、人類への恨みなんてものはどこにもない。
ただ、魔力を持たない人類の亡骸で作った人工精霊がどのようなものかをずっと見てみたかったのだと、男が呑気に言ったので法廷は静まり返った。
いざ創ってみれば思っていたよりもずっと醜い精霊であったので、期待はずれであったとも。だから、コレクションにはなり得ないと判断して、精霊にしたあとは全てその場で殺して来ましたよ──彼はひたすら、淡々と事実だけを話していたのである。
このセンセーショナルな出来事は、瞬く間に世に広まった。
人類兵に虐げられた魔法使いは多く、たった一人で数千人規模の人類軍を壊滅させたと言う男を英雄視する民も多い一方、いくらなんでも残忍過ぎる、まるで悪魔だと非難する声も当然あり、彼の存在は一時は大きく魔法界を騒がせることに。
人類からは災厄そのものだと恐れられ、魔法局からは抑止力になりえるだろうと処刑こそ免れはしたが非人道的な行いは戦争犯罪に当たるとして正式に裁かれ、男が魔力制限をかけられながら、死ぬまで監視され続けることが決まったのが約百年前のこと。
どのような形であれ、歴史に名を残すだろうとされている偉大な近代魔法使いの一人。
彼こそが、虹色の瞳を持つ者。名を、童磨と云った。
現在、彼は社会奉仕の一環として、この学園で精霊学の教鞭を執っている。
そんな男の強烈過ぎる来歴を知らない生徒はいないものの、これが存外、生徒からの評判は悪くはない。
色々と破綻した男である一方、同胞である魔法使いに対しては彼なりの仲間意識はあるようで、意外なことに教師となってから一度も事件などを起こしたことはなかった。
いっぱい人間を殺すと俺みたいになるよ〜と問題発言をして、謹慎処分を受けたくらいだろう。
「童磨先生、こんばんは。ご無沙汰してます」
「こんばんは」
「お二人とも元気かな? 君たちが高等部に行ってからあまり会えなくて先生は寂しいよ」
中等部時代の教え子である錆兎と義勇のこともしっかりと覚えているらしく、童磨はニコニコと見慣れた笑顔のまま伊黒の隣へ座る。彼は治安維持委員の特別顧問であるらしいのだが、それらしい活動を行っている場面を誰一人として見たことがないのは有名な話であった。
「こんなところで油を売っている暇があるなら見回りでもして来い、穀潰し」
仕事をしない顧問の代わりに、今日も忙しく働く委員長の伊黒は、軽蔑した目で童磨の方を見る。
「小芭内くん、俺こう見えても先生だよ? 三百歳を超える魔法使いだよ? すっごいんだよ?」
「目を離すと何をするか分からんから理事長の慈悲で目の届くところで飼われているだけだろう。敬って欲しいのならそれ相応の仕事をしてから言え」
「やだ〜お兄さん正論きら~い」
「三百歳がお兄さんを名乗るな図々しい」
仲が良いんだか悪いんだか──おおよそ潔癖なところがある伊黒は、本気で嫌っている部分もあるのだろうが──分からない会話の応酬を錆兎が苦笑を浮かべて聞いていると、何かを思い出した様子の童磨が徐に錆兎と義勇の方を向いた。
「あ、そうだ錆兎くん。義勇くんが飲んだと思うポーションはね、三時間程度で効果は消えるよ」
「えっ何か分かるんですか」
「まあね」
茶目っけたっぷりに、童磨がウインクをして見せる。
「義勇くんが飲んだのは、元はカップル向けのジョークグッズでね。好意を持つ者に本心に反して冷たくしちゃうってのが主な効能。副次的に、好きでもない相手に好意的に接しちゃう……ってのもあるけど」
確かに、それらは義勇の現状に当てはまる。恐ろしい洗脳薬などではないことが分かっただけでも、御の字だろう。
錆兎が胸を撫で下ろしている側で、隣の義勇はと言うと「食べる?」と童磨に渡された飴を「食ってやらんこともない」と言いながら、これまた素直に受け取って食べようとしたので「少しは学べ」と伊黒に横から奪われ、問答無用で飴をゴミ箱へと捨てられていた。
「ひっどいなあ、別に変な飴じゃないよ」
「自覚がないようなので教えてやるが、貴様が変な奴なのが一番の問題なんだ」
食べようとしていた飴を捨てられ、呆然とする義勇。
その背中を錆兎が慰めのつもりで撫でようものなら「触るな」と言われる始末で、よりにもよってややこしいポーションを喰らったなぁと男は目頭を抑えた。
「触るなだってさ〜あはは、可笑しいね!」
そして、無邪気に傷を抉る三百歳の教師。
「笑い事じゃないですよ、先生……」
「ふっふっふ。他ではなかなか無い面白い効能だろう? その名も、《嫌よ嫌よも好きのうち》薬さ」
「……いや、よいや……え? なんて?」
「ふざけるのなら出ていけ、それか失せろ」
「ふざけてないし大真面目だって。あと、それどっちも同じ意味だよ小芭内くん」
童磨は義勇にあげて伊黒に捨てられたものと同じ種類の飴を自分の口へ放り込み、頭を抱えた様子の錆兎により詳しく効能についての説明をしてやる。
「洗脳ではなく軽度な混乱、つまりただのチャーム状態だからメガネを取れば本心は分かるものなんだよ。嫌がるのは態度や口だけ、行動はそこまで伴わないから出て行ったり殴られたりはしないようになってる。なので安心してね」
カップル向けのジョークグッズと言うだけあり、暴力沙汰にならないような設計ではあるらしい。
おまけにメガネさえ取ればいつもの甘えたで素直な義勇であることを知った錆兎はまた安堵するものの、童磨が比較的マイナーなポーションについてやけに詳しいことに首を傾げた。
薬学の専門家であればともかく、知識量は圧倒的とはいえ専門外のはずなのだが。
「なんか……やけに詳しいんですね」
「うん。だってそのポーションを世に製品として流通させたの俺だし。開発は別だけど、前に副業でちょっとやってたんだよね~」
思わぬカミングアウトに、無言になる錆兎。まさか自分が当事者だとは思っておらず、先ほどから話についていけていない義勇。そして顧問を白い目で見ている伊黒。
「なにさその反応、ただのビジネスじゃないか。売れるんだよアダルト系のポーションは。まさか学校の収穫祭で使う子がいるとはさすがの俺も思ってなかったけど」
悪びれることもなく話す童磨に、なぜこんな奴が治安維持委員会の顧問なのだろうと、深刻な人員不足を伊黒は憎む。
「はあ、全く……呆れたものだ。そもそも、メガネを取れば本心が分かるのに口や態度では嫌がるなんぞ、それになんの意味があるんだ」
理解が出来ない、とでも言う風に首を横に振る伊黒を前にして、次は童磨と錆兎が静かになった。
義勇はまたもや話についていけておらず、ぼけっと首を傾げている。
「え……小芭内くん可愛い年下の彼女いるから伝わると思ったんだけど。このロマン分かんない? 錆兎くんは分かるよね?」
「オレに振らんでください」
童磨の問いと、言い淀む錆兎の反応からそういう意味で何らかの役に立つらしいことをようやく理解する伊黒。恋人とは未だに交換日記を楽しむような関係性で、接触するにしても手を繋ぐ程度が関の山。
年頃の青年とは思えないほど、非常に誠実で純粋なところがある彼には全貌こそ把握出来ないが、いかがわしい方面で意味があることくらいは辛うじて理解が出来た。
「殺す」
暗に子供扱いをされた気がして半ば八つ当たりの如く伊黒が理不尽な殺意を向ければ、童磨は逆らわず降参を示すように両手を上げて「小芭内くんのそういうとこは純朴で素敵だと思うよ、ウン」と呑気に笑う。
「ま、どのみちすぐ治るものだよ。安静も良し、せっかくだから楽しむも良し。とりあえず今日は部屋に戻った方が良いんじゃないかな? お大事にね義勇くん」
含みを持たせた言い方をする童磨に、錆兎は複雑な顔をして義勇の方を一瞥。
状況をこれっぽっちも理解していないどころか、まさか自分がチャーム状態である自覚もない義勇は見つめて来た錆兎の視線に対して、憎たらしくもフンとそっぽを向いて応えて見せた。
◇
錆兎がなんとか義勇を言いくるめ、パーティを抜け出し二人の自室へと帰って来る道中も、義勇はずっと不満げに腕を組んだまま錆兎の隣にすら寄って来なかった。
幼い頃に出会ったあの時から義勇は錆兎にベッタリで片時も離れることはなく、それは青年となった今も可能な限りは共にいることを優先するほどである。
正直なところ、こんな義勇はなんだか新鮮であった。
お互い生まれ持った気性なのか、対人関係においては何より平穏を望み、激しい言い争いに発展することもくだらないことで衝突することも滅多にない。たとえ珍しく喧嘩をすることがあっても、義勇が錆兎に対してこのような可愛げのない態度をとって意図的に注意を引いたり、機嫌を取らせて理不尽に反省を促そうとしてくるようなことはなかった。
部屋に戻って来た後も義勇は始終不服そうで、腕を組んで座ったまま。たまに目が合えばハア、と小さくため息をつかれ、恋人の身の安全が分かった今は錆兎にも余裕が生まれ、いっそ笑いそうになるのを必死に耐えていた。
相手への好感度が高ければ高いほど、そばにいるだけでうんざりされると言う《嫌よ嫌よも好きのうち》薬。名前はもう少しどうにかした方がいいと思うが、その効能は確かなものらしい。
愛する義勇がいつものように近寄って甘えて来ないのは多少残念ではある。だが、これもポーションの効果ゆえだと分かっている以上、楽しまなければ損だと言う気持ちすら男には芽生えつつあった。
「なんか飲む?」
平時で義勇にこのような態度を取られたりでもすれば、己の行動を顧みるなりを繰り返し、原因解明までは下手に刺激をせずひたすら焦ることだろう。
けれど、これは義勇がどんなに不機嫌になろうとも絶対にしない態度であり、尚且つこうなった原因もポーションだと分かりきっているのだ。
なので、あえて錆兎は声を掛けてみる。
今の義勇が、どのような返答をするのかが見てみたいと言う好奇心が勝った。
「いらない。俺に構うな」
しかし案の定、錆兎の気遣いを前にしても義勇はそっぽを向き、頬杖をついて窓の外を見つめる姿に口元が緩む。
なんだか、少し可愛いと思ってしまう。
これは男の性なのかなんなのか、逃げられるとどうにも追いたくなるのだ。
義勇が飲んだのはあくまでも恋人たちがふざけて飲むようなジョークグッズの類で、今は一種のチャームにかかっている状態。放っておけば数時間で効果は完全に消える上に、洗脳状態ではないのでメガネをとって心さえ読んでしまえば本音はダダ漏れなのである。
この馬鹿げたポーションの名前が《嫌よ嫌よも好きのうち》薬という名称なのも、おおよそ受け入れる側がポーションを飲んだ上でメガネを外し、口ではイヤイヤと嫌がりつつも内心では好意を持っていることが丸分かりという状況でセックスを楽しむと言うのが、このポーションの正しい使い道なのだろうと錆兎は推測した。
本当に、馬鹿馬鹿しいほかない。
それでいて、そのようなプレイに魅力を感じてしまう己はもっと愚かなのだろうと自嘲する。
「オレはコーヒー淹れるけど。ついでだし義勇のも淹れとくな、いつものチャイティーラテでいいか? ミルクいっぱい入れた甘いやつ」
「いらない。お前が淹れた飲み物なんか飲みたくない」
錆兎が淹れてくれる、蜂蜜いっぱい入れたホットミルクがないと眠れない──と昨晩も義勇が寝る前に甘えてねだって来ていた光景を思い出しながら「ああそう」と破顔しつつ、とりあえず彼がいつも好んで飲んでいる暖かなチャイティーラテを作ってやるかと男はキッチンへ赴く。そのついでに、自分のコーヒーを。
既に季節は冬に染まりつつあり、気温も本格的な冬とまでは行かないが決して高くはない。こういう日の義勇は暖かくて甘いものを欲するということを、錆兎は知り尽くしていた。
嫌がったり憎まれ口を叩くのはあくまでも口先だけで、行動はあまり伴わないとは童磨の説明にあった通り。
確かに義勇は可愛げのないことを言いはするが、錆兎を置いて部屋から出て行くような真似はしなかった。
ということは、だ。飲みたくない、なんて言いつつも、好物を差し出された義勇がどうするかなど分かりきっている。
「はい、どうぞ」
優しいミルクの風味の中に、ほんのりとスパイスが効いたコクのある紅茶。
それは学園都市の中にあるカフェで義勇が気に入って飲んでいたのものを、錆兎が市販の茶葉で似た味を出せないかと長きに渡って研究したという、愛がなせる努力の賜物であった。
見るからに暖かそうな湯気が立ったティーラテを前にして、義勇は警戒心の強い猫のような顔をしながらも──やはり、マグカップに手を伸ばす。
「変なもんは入れてねぇから」
脱いだ帽子とケープを掛け、ネクタイを緩めながら微笑む錆兎を義勇はジッと見つめたまま、まずは一口。
ここで、いつもなら「ありがとう、美味しい」と優しげに微笑む義勇の顔が見られるのだが。
「……まあまあだ」
「ぶっ……ふ」
育ちが良い義勇は、とりあえずありがた迷惑であろうと厚意には礼儀で返す主義である。天然なためうっかり余計なことを言ってしまうことはあっても、大抵は礼から入るのだ。
身内にもそれを徹底しており、錆兎からの親切も決して当たり前にはせず、小さなことでもありがとうを欠かさなかった。だからこそ、まさか義勇から淹れてやった茶に対し「まあまあ」などと言われるとは思っていなかった錆兎はあまりのシュールさに吹き出すしかない。
いつものホワホワとおっとりした義勇に慣れている余り、こうもつっけんどんな態度を取られると笑いが出てしまう。
義勇があからさまに誰かを嫌ったりする場面すら、長い付き合いのある錆兎ですら見たことがないのだが、もしかすれば義勇の好感度を地の果てまで落とせばこのような言動を取るのかもしれない。
一方、別に面白いことを言った覚えもないのになぜか笑っている錆兎に対して、義勇はまたも不服そうに顔を顰めた。
「なにが可笑しいんだ」
「ああ、いや。すまん」
などと言いながらも、義勇の小さな口はくぴくぴとティーラテを飲み続けている。
猫舌な義勇のために温度調整もバッチリなそれは、いつも通り義勇好みに違いない。態度から美味しいと言っているのが伝わる分、やはり自分の恋人は世界で一番可愛い生き物なのではないかと錆兎は人生で何度目かの確信を得た。
「今日はもう寝ようか。オレはソファで寝るから義勇はベッド使いな」
明後日まで授業がなく、このポーションの効果が数時間程度で解けるとは言っても、義勇が現状こうなってしまっては夜更かしなどせずに早めに寝るに限る。
離れて眠ることを嫌がる普段の義勇には絶対にしない提案ではあるが、今の義勇には無理に一緒に寝ようと錆兎も言えまい。錆兎はあくまでも気遣いで、淹れたてのコーヒーを飲みつつ告げると義勇は錆兎の方をポカンと見つめた。
「……な、なんで」
そして少し、焦るような声が続く。
「なんでって……さすがに今は一緒は嫌かなと」
「で……でも……あ、あした授業ないし……きょ、今日は……だって……いつも……あの……」
既に半分ほど飲んだティーラテが揺れるマグカップを両手で握り締め、義勇がしどろもどろに何かを訴えた。
言いたいことは、なんとなく分かる。本来であれば錆兎と義勇は授業がない日の前日は、なるべく恋人同士の時間を取るようにしていた。つまるところ、二人にとってはセックスをする日である。
ポーションの効能はあくまでも軽度の催眠に近いもので、言動こそ違えど目の前にいるのはおおよそ根本はいつもの義勇なのだ。だから、別々に寝ようとする錆兎に対して心では「どうして」「いやだ」という不安や不満があるのに、ポーションのせいでそれが上手く言語化が出来ていない。
元が素直で甘えたな義勇だからこそ、思っていることとは真逆の発言をしてしまう今、どうしたら良いのか分からず明らか混乱しているのが見てとれた。
これには義勇に甘い錆兎としては、楽しむと言うより可哀想で胸が痛むというもの。
錆兎は明日も収穫祭の後夜祭パーティがあり、今日は色々と大変ではあったが寝て起きてから仕切り直して楽しめばいいという考えで、恋人同士の時間もその時に、と思っての気遣いだったのだが。
一緒に寝たい、別々は嫌だと言いたいのに上手く言葉が出て来ずオロオロしている義勇を見ていられなくなり、錆兎は慌てて口を開いた。
「あ、あ〜……えっと。やっぱオレ、今日も義勇と一緒に寝たくなってきたなぁ……」
などとわざとらしく言えば、不安そうな顔を浮かべた義勇の黒目がちな目がジッと錆兎を見る。
「……義勇がよかったら、一緒に寝ていいか?」
コーヒーの入ったマグカップをテーブルに一旦置いて、メガネ越しに錆兎は義勇と目を合わせた。
恋人からの助け舟とも言える問いに対し、合わせた義勇の目は泳ぐ。口元をモゴモゴさせ、何度か口を開けたり閉じたりを繰り返したのち。
「……し……仕方、ないな。……特別に寝てやってもいい」
言葉は、やはりどう考えても普段の義勇ではない。
けれど、目を逸らしはするものの何度も大きく頷いて、徐々に嬉しそうに口元が緩んでいるのを見ると錆兎はホッとする。
男の中で、なんだかんだこの美しい人の悲しそうな顔が一番堪えるのだ。
義勇は錆兎が一緒に寝ると決まれば、途端に機嫌良さそうに同じく帽子やケープを脱ぎ、髪も解いて寝る用意を始める。
──ところで、だ。
(……今日ってセックスする気でいんのかな)
少しでも体調がよろしくない日は、そう言う行為は控えるようにしている。たとえ義勇が、アダルトグッズに分類される特殊なポーションを飲んでいるからと言っても、それは不本意な出来事で二人が楽しむためではなく、全てが想定外の事象なのだ。
錆兎もそれを理解している。そして自制出来る理性もあり、むしろ義勇が本心とは真逆のことを言ってしまって混乱し、苦しむようなら控えたい。
とは言っても、先ほどの別々に寝ようと錆兎が提案した際の不安げな顔が浮かぶ。
一緒にベッドまで行って、触れもせずに「おやすみ」と言ったらどうなるか。
いつもならベッドで抱きしめてくれるのに、明日は休みなのに、風邪も引いてもないのに触れないのか、どうしてなんで、と義勇は再び混乱するだろう。
「お前には関係ないが、俺はシャワー浴びて来る」
錆兎があれやこれやと考えている最中、残りのティーラテを飲み干してから二人の部屋に備え付けられたシャワールームに向かった義勇のマイペースな背中。
それがもう、完全にセックス前のルーティンであることを理解している錆兎は頭を掻いて、据え膳食わぬはなんとやらか、と覚悟を決めた。
この際、《嫌よ嫌よも好きのうち》薬とやらを楽しませてもらうしかない。
それにしても、やはりこのポーションの名前はどうにかならないものか。