錆兎の恋人である義勇は、性的なことに関しては非常に慎ましく奥手な性格をしている。
とは言え、それらのことを特別嫌悪していたり、遠ざけてはいなかった。
たとえば同性の友人間で下品な話題が上がった際の義勇がどのような反応をするかというと、あからさまに嫌がったりする様子は見られず、ただただ無表情のままポカンとしているのみで嫌がる素振りは見られない。
単純に下ネタの内容や笑うポイントを正しく理解していないのだろうなという印象であり、なんとなく周囲の空気から自分が馴染めない話題であるのを察して、曖昧なリアクションをするだけに留まるといった独自の乗り切り方をしているようにも見える。
一方で、親友同士であった錆兎と義勇が晴れて恋人関係も兼ねるようになって以降は、相性が良かったことも相俟ってこれまで幾度となく身体を重ねてきた。
だから、義勇は性的なことに関して決して無知ではない。下品な話題に対する面白みが理解出来ずとも錆兎による実践込みの教育の甲斐もあり、そういった事に関する知識は存外、年相応に備わってはいるのだ。
なにより、錆兎とのセックスは気持ちが良くて好きなのだと、恥ずかしそうに義勇の方から教えてくれたのも事実である。
普段の下世話な話にクスリともせず、自ら話すこともしない彼を知る者たちは思いもしないはずだ。まさか、あの義勇が男に身体を開かれることに強い快楽を覚えていることなど。
それでも義勇は己の性と向き合う中で、やはりどうしても恥じらいは捨てきれないようである。故に普段の営みにおいて誘うのは断然、錆兎からの方が多く、義勇から積極的にセックスを誘ってくる機会はあまりなかった。
そう。少ないだけで、ゼロではない。
義勇の方からシたいと可愛らしいお誘いを受けて、ベッドへ行くことだって月によっては何度かある。
そう言った日の錆兎は、いつにも増して義勇をトコトン可愛がると決めていた。
誘うことに不慣れな義勇から小声で受けるお誘いはなんとも男心を擽るものであり、錆兎は己の口角が限界まで上がっていることを自覚せざるを得ない。可愛いなぁと、かれこれ十年以上の付き合いがあってもなお、愛しくてたまらない親友兼恋人に対して男はどこまでも甘くなってしまう。
錆兎は、元より好意を持った相手には尽くしたいと考える男であった。与えられるよりも、与えたいのだと。
だからこそ義勇に欲しいと求められた日には、彼の思考がドロドロに溶けるまで甘やかすのが基本である。
舌すら回らなくなった義勇がフニャフニャとなにか言っているところに、うんうんと相槌を打ちつつ、頭を撫でて彼が一番欲しているであろう結腸までペニスを咥えさせてやるのだ。
義勇は意外と強引に虐められる方が好きなようで、そこも分かりきった上で錆兎は義勇の好きなように攻めてやる。上から義勇よりもずっと重い体重をかけて身動きも取らせないようにし、的確に弱いところを抉って撫でて、やがて義勇の体格相応のペニスが萎えて潮だけを漏らすようになるまで、ずっと。
そうされることを義勇が一番に望んでいるくせに、深い絶頂に堕ちることを反射的に怖がって赤ん坊のようにぐずるのをあやしつつ、繰り返し達している奥の粘膜を捏ねてやるのは堪らなく楽しいのだ。
もうイきたくないと、逃げようとする四肢を抑えつけてやれば面白いくらいに義勇の中が締まる。拒むような態度に反して子種が欲しいと吸い付き、媚びてくる貪欲さに目を細め、目の前の美しい人が己を求めてくれている幸せを錆兎はこれまで何度嚙み締めただろう。
義勇が求めてくれるのであれば、なんだってしてやりたい。
己に抱かれたいと訴える、愛おしい人の切実で甘ったるい願望を、錆兎は何度だって叶えてやりたかった。
「……ぅ、あ……っあ」
急に暑くなり始め、先週末に慌ててフィルターを洗ったばかりのエアコンが一生懸命に稼働する音に、荒い吐息が混じる。
妙に湿度の高い夜。汗ばんだ二人の皮膚が張り付くのが心地よくて、錆兎は対面座位で己を受け入れている目の前の義勇を抱き寄せた。
二人が大学進学を機に共に暮らすようになったマンション。その寝室に置かれたベッドの上で、いつもより速い義勇の心音に耳を傾ける。
ここ最近、錆兎のバイト先が繫忙期ということもあって、いつもよりも多めにシフトを入れていた都合上、二人の時間が中々とれずにいた。
お互い通う大学も異なれば、バイト先も別々。一緒に住んでいる以上は最低限顔を合わすものの、片方の生活リズムが忙しなくなると濃密な触れ合いがどうしても控えめになってしまうのは仕方がない。
とは言え、仕方がないなりにも工夫はしていた。特に寂しがりの義勇の方が、である。
錆兎が「遅くなるし寝てていいぞ」と何度言っても、義勇は夜遅くまで恋人の帰りを甲斐甲斐しく待っており、風呂や夕飯の準備をして、錆兎に欠かさず「お疲れさま」と言いながら玄関先で出迎えてくれていたのだ。
同棲を始めて、かれこれ一年と少し。なんだか新婚生活のようだと、遡ること中学生の頃から義勇を娶りたいと真剣に考えていた男が、このようなシチュエーションを前に浮かれてしまうのも致し方ないとも言える。
これだけ一緒に過ごしているのに、日々更新されていく「好きだ」という感情。だが、娯楽ばかりではなく学業や健康的な生活をなるべく優先している真面目な二人が、最低限の睡眠時間を削ってまでして性に耽ることは無く、錆兎が忙しくしている間の触れ合いとはせいぜいおやすみのキス程度に留まった。たまに、どうしようもなくムラムラが収まらない様子の錆兎を見かねて、義勇の方から口で抜いてくれたことは一、二回ほどあったが。それも錆兎の方から義勇に触ろうとすると「止まらなくなるだろうから我慢」と待てをさせられていたのである。
確かに、逆の立場であれば錆兎も義勇を寝かしつけていたであろうし、忙しいのが落ち着いたらシようと言ってくれる義勇の優しさや気遣いを錆兎は正しく理解していた。
してはいる、が、限度はある。我慢強さに自信があるとは言え、さすがの錆兎も三週間近くも経つと義勇をめちゃくちゃに抱きたくてしょうがなかった。
そうして数週間にも渡る辛抱の末。ようやくバイト先の慌ただしさが落ち着き、シフトのリズムが普段通りとなった錆兎は心の中で拳を突き上げて喜びを噛み締めた。
明日はお互い、一日何もない日である。
今夜は義勇を余すことなく可愛がり、昼まで寝て起きてから遅めのランチデートへと出かけ、義勇が好きな大きい本屋にも寄ってやり、それから一緒に日用品や食材の買い出しへ行って、夕飯作りは自分が担当し──と、そこまでのプランを考えて歩くバイト先からマンションまでの道のりは幸せそのもの。
錆兎には趣味と言えるものや掲げている目標などそれなりに多いものの、中でも義勇と一緒にいる時間が、錆兎は好きなのだった。
隣にいる以上は触れたくもなるが、それを差し引いても錆兎にとって満たされる瞬間は、義勇と共にあること。
錆兎は帰宅後、真っ先に今後はシフトが落ち着くこと、明日は丸々オフであることを義勇に共有して一日一緒にいたいと素直に誘った。
そんな真っ直ぐな錆兎の誘いを受けた義勇も心から嬉しそうにして、見惚れるほど綺麗な笑顔で頷く。
その瞬間の、なんと満たされることか。
錆兎が色褪せぬ幸せに浸っていると、不意に義勇が「あ、あの」とどこか言いづらそうに言葉を詰まらせ錆兎に問うたのだ。
──今日は抱いてくれるのか、と。
もちろん、錆兎とてそのつもりではあったが、いざ義勇から珍しく誘いを受けると舞い上がってしまう。だらしなくニヤけることは最低限抑えたつもりだが、思っていた以上に顔に出てしまっていたらしい。義勇は錆兎がなにも言っていないにもかかわらず「やっぱりいい」と恥ずかしそうに前言撤回をしようとしたが、食い気味に「抱くけど」とすかさず錆兎が宣言した。
待ちに待った、恋人の時間。
錆兎は義勇の薄く開いた唇へ噛み付くようにキスをしつつ、髪に指を通すと汗ばんだ頭皮を撫でた。義勇のくぐもった声が漏れ、抱き締めた体温は熱く、エアコンから吹く冷気との差異がやけに際立つ。
唇が離れると、絡めた舌の間では生温い唾液が伝った。言葉もなく何秒か見つめ合い、錆兎は発情しきった義勇の妖艶さに生唾を飲む。
「……義勇、もっかい良い?」
中に一度出しておきながら抜きもせず、こんなことを頼むのは宜しくないと理解はしていた。
それなのに、まだまだ足りない。
見つめ合う間も、義勇が甘イきを繰り返すたびに蠕動する蕩けた粘膜に硬度を保ったままのペニスは肉ヒダに揉まれ、きゅぅっと絞るように締め付けられる。対面座位の状態で何度も突き上げられ、錆兎の腹に向かって吹いてしまった潮は今も乾いてすらおらず、重い絶頂の余韻は義勇の思考を溶かしたまま。
あるはずのない子宮が疼いて、臍の下が熱くて堪らなかった。
「……だい、じょ……ぶ」
今度は義勇の方から、錆兎にキスをする。それは普段の義勇であればしないであろう、自ら錆兎の口腔へ舌を伸ばし、厚めの舌へと吸い付くような深いキスであった。
そのまま逞しい首に腕を回してしがみつき、目の前の雄を煽るように腰を振る。二人の体液と十分に注がれたローションが下品な音を立て、義勇は夢中になって腰を振り、錆兎の舌を貪った。
義勇の拙い腰の動きにより、肌と肌が控えめにぶつかる。
前戯の際に散々指で広げられ、今では血管と太い裏筋がくっきりと浮き出た重いペニスを奥まで咥え込んでしまった縦割れの後孔が、疼いてしまってどうしようもない。肉輪も限界まで広がっているというのに、なおも咀嚼するように雄を締め付ける。
「ぉ゙……っ♡ あっ、ぁ……ぁ゙、う♡」
しばらく義勇がどのように媚びて来るのかを目で見て楽しんでいたが、ここまで煽られたならば応えるのが男であろう。錆兎は義勇の動きに合わせて下から突き上げ、降りてきた結腸へ大きく張った亀頭を咥えこませた。
腰を掴まれ、力の入らない身体を玩具のように使われる快感。
すでに種付け済みではあるが、更に番の子種を欲して止まない結腸前の開き切った肉輪が錆兎を誘った。そこはペニスを近づけるだけで義勇の意思とは関係なく、ちゅ、ちゅ、と急かすように口を開いて雄を招こうとする様子は卑猥で、いっそ健気ですらある。
義勇の痴態に興奮した錆兎が、ふーと鼻から深く息を吐くと己を落ち着かせるために徐々にピストンを緩やかなものへとしていった。
可愛くて淫らで、美しい義勇が愛おしいのに、己を魅了して止まない恋人への情欲が怒りのような激しい感情へと変貌する。
優しく愛でて、大事にしなければという理性と、めちゃくちゃに犯して、自分の腕の中に閉じ込めておきたいと言う本能。
亀頭全体を余すことなく柔らかな粘膜で包んでくるのに、精液を求めてじっとりと吸い付いて離さない義勇の結腸は、女性器で言うポルチオに近しい性感帯へとなり果てている。おまけに太さも硬度も十分なペニスによって前立腺も常に圧迫された状態で、それだけでも強烈な快楽であるというのに。今の義勇は、そこに加えて奥まで錆兎を欲してしまっていた。
錆兎は義勇の欲求を察しておきながら、カリ高の亀頭を何度も引っかけてはコリコリと肉輪ばかりを抉ってやるだけ。すると鼻から抜けたような義勇の嬌声が弱々しく上がり、ピンと張っていた足の先がもどかしさで丸まる。
奥に、欲しい。突いてくれと、錆兎に懇願すべきなのに。それなのに焦らされて虐められている現状にすら、義勇が惨めなほど興奮してしまうのも疑いようのない事実であった。
もはや恥を棄てて自分から腰を激しく振りたいが、それすら錆兎に腰を掴まれて身動きも取れない。対面座位で完全に密着し、大好きな恋人に抱き締められ、ゆっくりと捏ねるように優しく突かれながら、義勇の目の焦点がどんどん合わなくなっていく。
じく、じく、じくと腹の奥へと熱が溜まった。結腸を浅く抜かれ続け、じわっと全身が総毛立った瞬間。
「……っ、あ、……ッ、ぁ゙……♡」
セックスの最中に触れられなくなって、久しく。義勇が肛門での絶頂ばかりに夢中になってしまった結果、すっかり行為中も柔らかく萎えた状態のペニスからは無色透明の体液が溢れる。被った皮の中でくぱっと開いた尿道から失禁するように潮を吹き、その間も熟された雄膣は何度も繰り返し達し続けていた。
耳元に、義勇の吐息がかかる。イっている最中も小さな声で錆兎の名前を呼びながら好きだと繰り返す恋人の中を自分で染め上げたくなり、錆兎は義勇の汗ばんだ後頭部へ手を回すと後ろへゆっくりと倒して、対面座位の状態から屈曲位へと体位を変えた。
そして間髪を容れず、ほとんど真上からプレスをするような激しいピストンが始まる。
焦らされた直後なのだ。今もずっと種付けをされたがっている結腸を潰すように犯され、直腸の粘膜が歓喜に震える。
「あ゙ッが……っ♡ ぃ、ぐ、いく、さび……ッひ、ぃ゙♡」
──冨岡って真面目だよなぁ。モテんのにさあ、女取っ替え引っ替えしないし、さっきも下ネタで盛り上がった時クスリともしてねーの。聖人君子だぜ、ありゃ。
義勇が、周囲からそのような評価を受けていた高校生の頃から、二人はセックスを覚えつつあった。
二人で学んで、二人で知って、二人で試して。今や義勇は錆兎だけに身体の奥を開き、雄としての尊厳や理性も全てドロドロに溶かしている。
ずっぷりと錆兎のペニスを根元まで完全に咥え込み、肉厚にふくれた肛門に錆兎の陰毛を擦り付けられ、まるでマーキングのような動きに義勇の腰が仰け反った。
「……義勇、セックス好き?」
奥まで咥えさせられ、上から抑え付けられた義勇は身体の自由を全て奪われる。耳元で錆兎が問い、汗が伝うこめかみや耳の縁にしつこくキスをされ、その間も短いストロークで結腸を押し上げられるようなピストンが続いた。
「……す……すき……」
頭がフワフワして、なにかを考えることが困難ですらある。
だから、この答えは偽りなどない、義勇の本心そのままの答えであった。
「錆兎と、せっくすするの、すき」
背中に回された義勇の腕に、力が籠る。
必死に抱きついてくる、濡れた体温。普段は誠実で爽やかな好青年と称されることの多い錆兎も満たされる独占欲に目を細め、悪い男の顔になってしまう。
髪の一本ですら、誰にも渡さない。濡れた目尻に唇を寄せたあと、錆兎は「かわいい」と呟きながら義勇の唇を奪った。
二人の夜はまだ、明けそうにない。