【サンプル】参っちまうよまったくもう

 大学生となってから始まった同棲生活。
 二人が通う大学の、ちょうど中心部に位置する築三十年程のリノベーション済みマンション。お互い荷物も少なく、個室が欲しいと思うほどプライベートを重視する間柄でもなかったため、部屋数よりも立地と家賃重視で選んだ物件は1LDKとそこまで広くはない。
 しかし主な時間を過ごす十帖ほどのリビングダイニングには一緒に選んだソファに、中古家具店で錆兎が見つけて来たちょうど良い高さのローテーブルが添えられ、前方には週末に映画などを楽しむため購入したチューナーレステレビも設置されており、この住まいには二人で選んだお気に入りがたくさん敷き詰められていた。
 なにより、隣接された六帖間の寝室に鎮座するダブルベッドは温かみのある木製のベッドフレームが採用され、そこには少し奮発した良いマットレスまで敷かれてある。
 これらはまさに、慎ましい暮らしを好む二人にとっては、小さな幸せそのもの。
 決して広くはないが、その分ギュッと詰まって纏っており、錆兎も義勇も今の暮らしを心から気に入っている。
 同棲を始めた数年前の当時。家具の搬入を終えた直後は改めて二人の寝室を見渡し、今日からここで錆兎と毎日寝起きを共にするのかと実感した義勇は少しのくすぐったさも覚えたが、同時にすれ違いなどが生じたらどうしようかと、不安を覚えた時期もあった。
 だがそれも、全て杞憂に終わる。
 小学生の頃に出会い、中学生の時に共に恋心を自覚して、高校生で結ばれてから、かれこれ数年。
 義勇が夢にまで見た錆兎との共同生活は、不思議なほど順風満帆であった。
 もちろん、どちらかが譲り合って成り立っている部分はある。けれど、それが全く苦ではない。
 錆兎と一緒にいる時が、義勇は何より自然体でいられた。自然と相手のことを思いやり、自然と笑えて、自然と甘えることが出来た。
 錆兎からも義勇といるのが一番落ち着くと言われることも多く、これからも錆兎が落ち着ける場所が自分の隣であれば良いなと、義勇は思うのだ。
 友として。もちろん、恋人としても。
「──あっ、ぅ……っあ、ぁ……」
 深夜をちょうど回った頃。
 今やすっかり見慣れた二人の寝室で、達した錆兎に上から抑えつけられた状態の義勇から上擦った声が上がる。
 軋んだベッドの上。そこには不自然にもペット用シートが何枚か敷かれてあるものの、ここはペット不可のマンションであり、当然ながら二人は犬も猫も飼ってはいなかった。
 では、なぜこんなものがベッドに敷かれているのか、という話になるのだが。
「ん、っあ……ぁ」
 一息ついた錆兎が密着させていた腰をズルズルと引くと義勇は後孔を広げつつ、尿道から無色透明の体液を腰の下に敷いて貰ったペットシートの上へ失禁するかのように滴らせた。
 行為を重ねていく内に射精も伴わず中で達することが増え、今ではすっかり潮を吹いてしまうようになった義勇の肉体の変化を見ていると、錆兎は罪悪感と同時に優越感すら湧く。
 二人で購入したマットレスは極力大切に使いたいと義勇が言い出して、バスタオルよりも吸収性に優れたペットシートを採用するようになったのだが、後始末も楽で、これが意外と使い勝手が良い。
 以降はペットを飼ってもいないのにこのシートをわざわざ購入して、セックスの際に使用しているという訳である。
 義勇が下半身を濡らしながら、これまで幾度も犯されたことにより今や縦に割れ、肉厚でぽってりとしてしまっている肉輪で貪欲に雄をぎゅうぎゅうと締め付けてくるが、それにも逆らうように出っ張ったカリ首を引っかけながら一度目の射精を終えたペニスを錆兎は強引に抜いた。
 しかし、長大なペニスを随分と奥まで頬張っていた腸壁は物足りないらしい。締まった括約筋により着けていたコンドームが中で脱げると、義勇の後孔内に残ってしまう。
 吐き出された精液を溜め込んだゴムを咀嚼するように、摩擦によって赤く熟れた肉輪がヒクヒクと窄まったり開いたりを繰り返しているのを目の当たりにして、錆兎は大きく膨張させたままの己のペニスが再び臍につきそうなほど頭を擡げるのを感じた。
 義勇の後孔から、短い尾のように飛び出しているコンドームの口は滑稽で、いやらしい。中から精液が漏れぬようにと指で摘んで、それをゆっくりと引き抜いてみる。
「っふ、ぅ……あ……んッ」
 精液溜まりがたっぷりと膨らんだコンドームが、粘膜を引き攣らせながら漸く抜けたことで栓を失い、中に注いであったローションと体液が混じったものがドロっと濡れて解れた雄膣から愛液のように潮と同じくペットシートへと垂れた。
 まだ、結腸を開かされて何度も突き上げられた後の絶頂の余韻が引かないのだろう。義勇はずっと静かに呼吸を整えており、ただ、脚を閉じることはしない。
 錆兎がゴムの口を縛ってからティッシュで包んで捨てている間も何も言わず、胎内の熱をどうにか逃がそうと必死であった。
「水飲む?」
 錆兎が声を掛けると、気怠げに頷く。
 サイドテーブルに前もって置いてあったペットボトルの蓋を開けてから、すっかり脱力してしまった義勇の上体を起こしてやり、ベッドの上で背中から抱きしめるように座らせる。
 蓋の空いたペットボトルを握らせようと錆兎が義勇の顔を覗き込むが、義勇は一度考えてから首を横に振って、ちらりと背後の錆兎を見上げた。
「……のませて」
 甘える恋人にそう言われてしまっては、応えるしかない。
 錆兎は代わりに水を口に含んでから、義勇の形の良い顎を掴んで唇を重ね、慣れたように流し込んでやる。
 口移しされた水はぬるく、錆兎の味がした。また、臍の下がジクジクと熱を持ち始めたことに義勇の頭は朦朧とし、身体は疲れきっているのにもかかわらず再び発情し始めていることが自分でも分かってしまう。
「もっと」
 喉を小さく上下させ、唇の端を濡らして上目遣いの義勇が言うと、錆兎は何も言わずに水を飲ませてやった。それを何度か続けて義勇が満足した後、キャップを閉めたペットボトルを再びサイドテーブルに置いてから、錆兎は腕の中の可愛い人にキスをする。
 今度は水を飲ませるためではなく、二度目のお誘いとして。
 肉厚の舌が口腔に入ってくるのも義勇は無抵抗で受け入れ、自らも舌を伸ばして積極的に絡ませる。濃厚な口付けに再び頭がぼんやりし始めると、許しを得たと見なした錆兎の手が義勇の未だ開きっぱなしの後孔へと伸ばされた。
 そして、三本の指を一気に咥え込まされる。
 錆兎の太さも十分なペニスを咥えた直後であり、その程度は余裕で呑み込めた。だが、中イきが癖付いて今もまだ熱を持ったままの粘膜を指で圧迫されるのは、いささか刺激が強すぎる。
 深いキスで口腔を犯され、声こそ出せないものの三本もの指で手前の前立腺を一斉に押し込まれたことにより、義勇は内腿を痙攣させてあっという間に甘い絶頂を迎えてしまう。既に染みを作っているペットシートに向かって、義勇のペニスから雄としてのなけなしの矜持を示すかのように、薄い精液が少量だけ飛び散った。
 指での愛撫を行いながら中にローションまで注がれると、聴くに堪えない音が部屋を満たしていくことに義勇の顔は可哀想なほど赤く染まる。
 ぐちゅぐちゅと、掻き回す度に下品な音が自分の中から聴こえてくることに堪えられない。
「ん……っふぅ、う……♡」
 更には空いた手で背後から薄い胸を揉まれ、前戯の際にはイくまで散々弄られた大きめの乳首を気まぐれに摘まれたことで、義勇の腰が跳ねる。
 錆兎の、短く丸く整えられた爪。それで芯を持っている乳首を下からカリカリと焦らすように掻かれた後、強めに摘まれると無意識に後孔が締まって、代わりに他の力が抜けてしまうのだ。
 乳首を引っ張られ、弾かれる。
 平らな胸に対し、乳輪からやや腫れてぷっくりと大きめな乳首がなんともアンバランスで、錆兎の悪戯心をくすぐる。後は甘やかすように指の腹で優しく乳頭を撫でられ、錆兎の舌を吸う義勇の目が潤んだ。
 続いて追い打ちを掛けるように中で指を広げられてしまい、くぱっと発情しきった蕩けた粘膜を露出させられるのと錆兎の唾液を飲まされたのは、ほぼ同時である。
「……あーあ、義勇のここ……指離れても開きっぱなしだし、中も手前はとろっとろなのに奥の方キツくて」
 唇が離れ、興奮した様子で笑みを浮かべた錆兎が呟き、この熟れきった蜜壺にペニスを捩じ込めばどれだけ気持ちが良いのだろうかと唇を無意識に舐めた。
「……すげぇエロい」
 完全に、雄を受け入れる性器と化した後孔。
 想いを伝え合った高校生の頃。義勇に触れたいという欲求が積もると同時に、お前に抱かれたいと義勇に乞われ、それから恋人としての戯れが始まった。
 最初は強張るばかりで指すらもやっとだったそこもすっかり刺激に弱くなり、今では早く早くと急かすように腸壁が蠢いてしまっている。
 義勇は身も心も、まさに内側から錆兎に染められきってしまった。
 錆兎しか知らない、錆兎だけを欲しがる敏感な粘膜。
 ふやけた指を全て抜き、代わりに手に取ったコンドームの封を一つ開けて、慣れた手つきで自身のペニスへ被せると錆兎は義勇の細い腰を掴んで少し持ち上げる。
「義勇、そのまま腰下ろして」
 背面座位の体勢のまま。後孔に先端を宛てがわれ、義勇は言われるがまま前へ手を突くと突き出した腰を徐々に下ろした。
「は……っあぅ、うぅ……♡ さび、と……の奥……挿入っ、て……っ」
「ん……上手」

◇中略◇

 恋人の戯れを終えて錆兎がテキパキと後始末をしてくれている間、生まれたての小鹿のように立ち上がれないほど震えていた足腰がなんとか落ち着いた義勇は風呂場でゆっくりと汗や体液を洗い流していた。
 鏡に映る自分を一瞥し、服を着れば見えない場所とはいえ背中や内太もも、胸元や臍の下などに幾つも残されたキスマークを前に、流石にこれは付けすぎだろうとは思うが、錆兎に執着を示されるのは結構嬉しかったりもする。
 満足げに付けられた痕の数々を見渡した後、彼が沸かしてくれていた湯船に浸かって、疲れた脚の付け根を義勇は揉み、次に腰を撫でる。湯加減も程よければ、義勇が好きな入浴剤を前もって入れてくれていたらしく、香りも良い。
 本来ならばリラックスするのにもってこいな状況。
 しかし義勇は腰をさすりながら、なんとも難しい表情を浮かべたまま顔が少しずつ湯に漬かる。
 ぷく、と口から漏れた吐息が、湯の上では気泡となって割れた。
 事後に休憩を挟んだこともあり疲れ果てている訳でもなく、錆兎に対して不満を抱いている訳でもない。
 今日のセックスだって、腰が抜けるほど気持ち良かった。
 あの後も結局、もう一度シたほどには。
 錆兎としては二回で終わらせるつもりであったようだが、コンドームを抜き取った後の、精液がべっとりと絡んだ錆兎のペニスを前にして義勇が頼まれてもいないのに舐めて掃除を始め、徐々に欲しくなって三回目が始まった。
 今もまだ何かを咥えている気がする後孔が、少しだけ疼く。
 なにも錆兎と義勇は一回のセックスの内容が濃いだけで、頻度自体はそこまで多くはない。
 週に一、二回。三回もしていれば、今週は多かったなと感じる。お互い忙しい時期には、数週間はなにもないことなどざらにあった。
 一般的な大学生カップルの頻度がどのようなものなのかは、そういう話ができる友人の少ない義勇には分からないが、同棲をしていなかった高校生の頃の方が頻度自体は多かったことはハッキリと記憶している。
 父子家庭である錆兎の父が、仕事が多忙で帰って来られない日には部活帰りで疲れているであろう錆兎のために義勇が姉と作った夕飯を彼の家まで持って行って二人で夕飯を食べ、そのまま毎日のように挿入までせずとも触り合っていた。
 単純に、歳を重ねて自分たちが落ち着いたと言うのもあるのだろう。
 頭では分かっている。だが近ごろ、錆兎が何か我慢というか、遠慮をしているような気がするのだ。
 義勇は湯気が上る浴室の白い天井を見上げて、少しだけ騒つく心を鎮めようとする。
 かれこれ出会って十年以上は経ち、互いに想い合いながら数年、そして錆兎からの告白を経て交際を始めて五年ほど。
 義勇がそうであるように、錆兎も義勇しか知らないままここまで来てしまった。
 錆兎が出会った時から自分だけを見てくれていることに喜びを感じ、それと同じくらい焦りを抱き始めたのはいつからか。少なくとも、錆兎からセックスの際に遠慮のようなものを感じ取った時からであるのは確かだ。
(……飽きられてたらどうしよう)
 ふと、考えてしまう。
 元よりサッパリとして明るく、勉強も運動も出来る錆兎は特に何もせずとも周囲から一目置かれる存在で、勝手に周りの方から寄ってくる。
 大学生になって出会いも増え、それはより顕著となった。
 だが、錆兎はさほど交流を広げたい訳でもないそうで、人付き合いに関しては狭く深く築く傾向にあり、集まりなどに誘われても当たり障りなく断ったりする。
 それなのに周りから「錆兎も来いよ」と誘われ続けることこそ、彼が人に好かれている証左なのだろうけれど。
 義勇は、錆兎のそう言うところも好きだった。
 人見知りで口下手な自分には、まず持っていないものだから。
 でも今は、錆兎が窮屈に感じているのではないかと不安になってしまう。本当はもっと、他人に興味が移りつつあるんじゃあないかとか、それこそ女性に惹かれつつあるのではないかとか。
 昔は、高校生の頃などは、セックスの際に「こういう体位がしたい」などと錆兎はもっと──意欲的というか、要望的なものを伝えてくれていた。そこには遠慮なんてものはなく、無理強いこそしないが義勇が恥ずかしがって渋りつつも最終的には頷くと分かった上で聞いてくる男だった。
 義勇が高校の文化祭でメイド服を着せられる羽目になった時なんて、しつこいほどに何度も可愛いと褒められ、文化祭を終えてメイド服を持って帰らされた時には当然ながらそれを錆兎の家でも着せられ、あれやこれやと色々としたのを覚えている。
 どちらかと言えば真面目で硬派に見える彼も、意外とこういう俗っぽいものがちゃんと好きなのかと義勇が驚いていると、むしろ嫌いな男なんていないだろうとあっけらかんと認める錆兎は、なんだか堂々としていてカッコ良さすらあった。
 義勇はそんな、錆兎の下心由来の好奇心に対していっそ可愛いらしさすら感じ、恥ずかしくはあるが彼のためならこういうプレイも喜んで付き合おうと、あの時思ったと言うのに。
 同棲を始めて自由も増え、ホテルにも自由に入れる年齢になり、それだと言うのに。
 大学生となった今、錆兎からはそのような誘いを一切受けていない。
 もう、興味がなくなったのだろうか。
 それか大人になってから冷静になって、恋人の女装をいっそ面白おかしく感じて冷めてしまったのかも知れない。
 自分から着て誘ってみるにしろ──錆兎に引かれるようなことがあれば、きっと義勇はもう二度と立ち直れなかった。
 錆兎は毎日のように義勇に対して綺麗だと言ってくれるが、ここまで来るとあれももはや惰性のようなものも含まれている気がしてくる。錆兎からの愛情を疑う余地などないはずなのに、やや複雑な思考回路をしている義勇はどんどん拗らせてしまうのをやめられない。
 実際、セックスの時に「もっと」と誘うのは義勇からの方が多くなっていた。
 頻度が減ったことによって一度にたくさんの錆兎に満たされたくなり、欲張りになっていることは自覚している。
 義勇は無言で天井を見つめ、大きくため息をついた。
 こう言う時、気兼ねなく相談が出来る友人でもいればいいのに。その、なんでも相談出来る友人こそが錆兎でもあるので、もはや八方塞がりである。
 そもそも、錆兎とのセックスのことなんて誰にも話したくない。
 二人だけの、特別なものであって欲しかった。
「──義勇、のぼせてないか? 大丈夫か?」
 いつもよりも風呂の時間が長い義勇を心配して来てくれたらしい錆兎の声がドアの向こうから聞こえ、義勇はハッとして「だ、だいじょうぶ」と答える。
「ごめん、すぐ上がる」
「いや、のぼせてないか心配になっただけ。ゆっくり入ってくれていいから」
 優しい声に、今は少し胸が苦しい。
「……うん、ありがと」
 前までは、そのまま風呂に一緒に入って来ることも多かったのに。だが、それも以前になし崩して風呂場で盛り上がってしまって、翌日に義勇が風邪を引いてしまってからはなくなった。
 飽きられている訳ではない。ただ、錆兎が優しいだけだと言い聞かせる。
 面倒だとか、負担だとか、そう言う風に思われていないことを願うばかり。
 脱衣所から錆兎の気配がなくなって、湯船に義勇が口まで浸かってから再びブクブクと泡を吐いた。
 こんな、いつまでもウジウジと悩んでいる自分は、男らしくない。
 なにもせず錆兎の動向だけ窺って、勝手な憶測で落ち込んで焦って心配をするなど、いっそ錆兎にも失礼だろう。
 錆兎がいつも、なにも言わずとも引っ張って行ってくれるところに惹かれたのは事実だが、それが自分からは何もしなくて良い理由にはならないはずだ。
 恥ずかしくとも、怖くとも一度くらい自分からもアクションを起こさなければ、それこそ見限られてもおかしくないんじゃあないかと己に活を入れる。
 ザバっと勢い良く湯船から上がる義勇。まだ少し足元がおぼつかず、一瞬ふらつくが顔つきはどこか勇ましい。