おはようも忘れて

 一ヶ月近くに渡って行われた調査・討伐任務をそれぞれ終え、偶然にも二人の帰還は同日であった。錆兎と義勇は互いに、ひと目見て疲れ切っているのが分かるやつれた姿で鉢合わせると、労りの言葉をかけて肩を組み、ヨロヨロと並んで仲良く家へと入っていった。
 明日からは、共に数日の休暇。久し振りにゆっくりと風呂に入って汗と汚れを落とし、二人で夕飯を兼ねて晩酌でもするかと居酒屋へ食べに出かけ、帰ってすぐに布団を敷くと残すは寝るだけとなる。
 義勇はもうこの辺りから抗えない眠気を前に、言っていることが支離滅裂となっていた。けれど彼なりに錆兎に話したいことが沢山あったらしく、どうにか頑張って話そうと、こっくりこっくりと船を漕ぎながらも口を動かす。
 だが、流石の水柱も最終的には睡魔に負けてしまい、義勇はむにゃむにゃと何かを話しながら夢の世界へ。錆兎は一足先に眠った恋人を自分の方へと抱き寄せ、上下する愛しい背中を撫でて瞼を閉じると、確かな温もりを抱いたまま満足げに眠りについた。
 二人とも大きな怪我もなく、こうして無事に互いの体温を感じられることに感謝をしながら。
 そして場面は変わり、翌朝である。
 久し振りにぐっすりと眠れたこともあり、非番の朝は特に寝汚い義勇も目覚めが良い。何より、すぐ近くに錆兎がいる。仕事柄、長らく続いた昼夜逆転生活と寝不足の日々に暫しの別れを告げ、義勇は起床直後からとても満たされた気持ちで目を覚ましたはずだったのだ。
 それなのに、なぜか少し困ったような顔のまま、先ほどから静かに錆兎の腕の中で縮こまっている。
 錆兎は、まだ寝ていた。義勇が錆兎よりも早くに目を覚ますのは珍しいことであり、義勇はここぞとばかりにいつも錆兎がしてくれるように朝食などを用意してやりたいと考えているのだが、それすらも出来ずにジッとしている。
 何故、ならば──義勇のちょうど臍あたりに、単純な生理現象で勃起した錆兎のモノが力強く押し当てられていたからであった。
 しかし義勇も同性として同じ経験が何度かあるため、たかがこれだけの事で生娘のように恥じらいを覚えることはない。それに、ほぼ男所帯のような組織に属している身としても、限られた仮眠時間の際に他人の朝勃ちを目撃することなどもはや見慣れてすらいた。中には戦闘中に気が昂って勃起してしまう隊士もいるほどで、それについて義勇が嫌悪感を抱いたことは一度もない。みな、文字通り命懸けで夜の戦場を駆けているのだ。勃起した程度、そのことを揶揄ったり不潔に思うような低俗な考えは、義勇だけでなく隊士の誰もが持ち合わせてはいないであろう。
 こればかりは、若い内は本当にどうしようもないことなのである。特に助平な夢を見ているわけでもなく、健康状態や精神面、その他、海綿体と血液の都合で本人は意図せずともそうなってしまうだけなのだから。
 疲労困憊の状態で眠った際に、勃起してしまうことはよくあると聞く。なにより、江戸の時代より朝マラの立たぬ男に金貸すなとも言われていたわけで、錆兎のソレがしかと元気であることは良いことなのだ。
 ならば、なぜ。義勇が見て見ぬ振りをするわけでもなく、こうも動かないでいるのかという話になるのだが。
 それもこれも、単純に困っていたからである。
 ぐうぐうと寝息を立てて眠っている錆兎の力強いペニスを前に、性的興奮を覚えている自分に。
 もっと俗っぽく言うと、非常にムラムラしていた。
 なにせ入れ違いなども重なって、かれこれ一ヶ月ほどはご無沙汰の状況。営みの際には自ら強く望んで女役を引き受けているとは言っても、義勇もやはり好きな人と密着していればそういう気分にもなってしまうような、ただの男だ。なにより臍の下辺りに硬くなった陰茎を押し当てられていれば、自然と意識がそちらにいってしまって、足を擦り合わせてしまい気もそぞろになりつつある。
 朝からはしたないと自身を咎める義勇は、相変わらず奥手で控えめな青年であった。真面目で清らかであり、誰よりも理性的で落ち着いた精神の持ち主なのは間違いない。
 ただ、錆兎の捲れた寝巻きの合わせから木綿の褌が覗き、それが大きなペニスで押し上げられているのが見えると色々とダメになってしまう。
 行為の際にはより低くなる錆兎の声や、少し意地悪になるところ。大きな手のひらと太い指、自分よりも厚みのある重たい身体や、奥の方まで満たされる圧迫感。それら全てを反芻し、義勇は自身の脳と共に頑なな理性が溶けていくような感覚に陥る。
 義勇が布団の中へと、潜り込ませた手。それがゆっくりと錆兎の股ぐらに伸びると、悟られないように指で寝間着の合わせを広げた。中から現れたのは、いきり勃ったペニスに押し上げられた哀れな褌であり、隙間からは頭髪と同じ色をした濃いめの陰毛が覗く。
 義勇は、錆兎の様子を窺った。義勇とて水柱を担う剣士である以上、周囲の気配感知能力に長け、覚醒時と睡眠時で異なる呼吸の差くらいは容易く読み取ることが出来る。恋人が狸寝入りをしているか否かを見抜くなんてことは、造作もない。そもそも、錆兎がこのシチュエーションで眠ったフリをするような小賢しい男でもないことは義勇も分かりきっている。
 彼が起きているのであれば、意気揚々と「する?」と聞いてくるに違いない。義勇が愛するたった一人は、そういう男なのだ。
 耳を澄まして聞こえる、面白いほど一定間隔で刻まれる全集中・常中を行っている隊士特有の呼吸音。過酷な任務明け、長期の昼夜逆転生活、義勇の隣、自宅で迎える休日の朝という特定の条件が揃わなければ見ることのない、極めて珍しい錆兎の熟睡を察知し、義勇は彼を仰向けに寝かせると腕の間から抜け出すことに成功する。
 そして錆兎の足元で正座をすると、えいやと下腹部を覆う布団を捲った。
 そこに現れたのは、もはや天晴あっぱれとしか言いようのない、一種の造形美さえ感じさせられる逞しい男根が、力強く褌を押し上げてそそり勃っている光景である。
 錆兎のブツは長さも太さも圧倒的で、なにより不思議とグロテスクさを感じさせない神聖さすらあった。それはいっそ、年寄りが見れば有難く拝むんじゃあないかと思えるほどで、同様のことを錆兎にも伝えたところ「お前は何を言っている?」と真顔で一蹴されたのは言うまでもない。
 だから代わりに、人知れず陰茎へと手を合わせて拝む義勇。一方、最愛の人が己の股間に合掌していることなど気づかず、深い眠りについたままの錆兎。混沌カオスが深まる休日の朝であるが、義勇は至って真面目な形相で少しばかり陰茎を拝み、意を決して褌へと手を伸ばした。
 手慣れたように褌が解かれ、錆兎のペニスが外気に晒されると義勇は息を吞む。
 自分にも同じものがついており、今や見慣れたと言っても過言ではないほど身体を重ねてきたが、どうしても己の性器とは別物としか思えない迫力がそこにはあった。狭霧山で駆け回っていた頃、お互い素っ裸で川に入ったり風呂に入ったりは日常的で、その時は錆兎の裸を見たとてなにも思わなかったというのに。
 成長と共に恋心を自覚した今となっては、意識せざるを得ない。
 これでいつも、自分は誰のものなのかを自覚させられているのだと。
 義勇は結っていない長い髪を耳に掛け、前方に腕をついて身体を屈ませると、カリ高の大きく張った亀頭へと顔を寄せて口付ける。
 眠っている錆兎のペニスを、こうして朝から好きなだけ奉仕出来るのは素直に嬉しい。
 義勇は早速、血管が浮き出るほどに大きく張り詰めた恋人のペニスを舌から迎えに行くようにして、亀頭を口で覆った。ぱくっと、まるで食すように。
 いくら清潔にしているとは言っても一晩経てばそれなりに濃厚な雄の風味はするもので、そのことに義勇の顔は蕩けた。耳にかけた髪が落ちてこないように手で抑えたまま、好物を前にして喉奥から多量分泌された乾きづらい唾液を亀頭全体に熱い舌で塗り広げ、摩擦をなくした状態で頭を動かすと唇で締めてやり、優しい刺激を与える。垂れた唾液を塗り広げるように、白い手で竿を揉んで扱いてやれば裏筋が一度、ビクンと強く脈打ったのが分かった。
 しばらくして己の唾液に先走りが混ざってきているのを察し、義勇は口内に溜まった唾液を一度嚥下する。
 しょっぱいような、嚥下後に少しの青臭さが残るカウパー独特の風味。これも好ましいが、やはり口腔で咥えたまま射精した際の、外気に触れていない精液の方が味も分かりやすく飲みごたえもあるななどと馬鹿馬鹿しい感想を抱く義勇は夢中になってカウパーを啜り、錆兎のペニスを奉仕する。
 こんなにも可愛げのない勇ましい風体であるにもかかわらず、この肉棒が愛おしくて仕方がない。
 ぷは、と一度口を離して開閉する尿道から膨らむように分泌されるカウパーの粒を眺め、それが大きくなって垂れてしまう前に舐めとる。舌を添えて吸い付き、一方でなにも咥えていない義勇の後孔が独りでに疼いていた。
「……なにしてんの奥さん」
 そこで寝ぼけたような声が降り、義勇は再びペニスを咥えると上目遣いで錆兎の方を見た。
 なんだか下半身が温いような、くすぐったいような、気持ちいいような気がして目を覚ませば、この有様だ。起き抜けに奉仕されている予想外の状況に錆兎も手放しで喜べばいいのか困惑すればいいのかがイマイチ分からず、けれど可愛がられている愚息は素直に悦びを示すように臍につくほどそそり勃っている。その間も義勇は問いに応えもせず、頬の柔らかな内側の粘膜に亀頭を擦り付けるようにして頬張っており、しまいには睾丸を撫でて優しく揉み始めた。
 この義勇の顔は、完全に発情している。
 まさか己の朝勃ちで義勇のスイッチが入ってしまったことなど知りもしない錆兎からすれば、義勇の行動はどこまでも突拍子がなかった。とは言え朝からこのように戯れることが出来るのは、錆兎とて嫌ではない。むしろ、普段は奥ゆかしい恋人がたまに見せてくれるいかがわしい一面を朝から拝めて幸福ですらある。
 若者でありながら責任のある立場を任され、多くの使命を背負い、歳の割には妙に達観した青年たちであるのは間違いないが、この時ばかりはまだまだ二十歳そこらの若者となってしまうのは仕方のないこと。
 徐々に覚醒していくにつれて、錆兎は笑みを浮かべた。それは己を常に律して周囲を鼓舞し、正義感溢れるいつもの勇敢な剣士の顔などではなく、ただただ下心に塗れた男のものに過ぎない。
 義勇はそんな恋人に呆れるどころか可愛いさすら感じて目を細めてしまうのみで、結局のところ二人はどごでもお似合いと言う他ないだろう。
「起こしゃあいいのに」
 楽しそうに言いつつ、錆兎は気怠げに上体を起こすと竿を扱きながら裏筋を舌先でなぞっている義勇の頭を大きな手で撫でて、落ちてきていた黒髪を耳に掛けてやった。
 なおも義勇は言葉を交わさず、視線だけを錆兎の方へ寄こす。裏筋に這わせていた舌を睾丸と竿の付け根へと滑らせ、すれ違った若い娘が一度は視線を送るくらいには整った顔を自ら、たっぷりと子種を溜めているであろう重たい陰嚢へと義勇は押し付けた。
 錆兎が、ここを愛撫されることが好きなのも義勇だって分かっている。手で少し陰嚢を持ち上げつつ、歯が当たらぬように気を付けながら義勇は熱い口腔で睾丸を包み込んでやり、頭上からは錆兎の甘ったるい声が一瞬漏れた。
 気持ちいい、と訴える錆兎のうっとりとした声色。褒められたような気持ちになって義勇は嬉しくなると、空いた手では敏感な鈴口を刺激した。次々に垂れてくるカウパーを指先に絡め、刀を扱う以上は常に丸く整えられている爪先で優しく尿道を弄り、錆兎の大好きな玉舐めを義勇は隅々まで丁寧に行う。
 早朝、小鳥がさえずる音に混じり、微かな声と下品な水音が聞こえる屋敷の一室。
 噎せ返るような雄の濃い匂いで鼻孔を犯され、義勇は辛抱たまらず唾液の糸を引きながら一度睾丸から口を離すと、熱い吐息を吐いた。
 すぐ目の前にあるのは、幾つもの血管と太い裏筋がくっきりと浮き出て、先端にいくにつれて血液が集まっていることを示すかのように赤黒さが目立つ大きなペニスである。
 いつも義勇の肉輪をこじ開けて結腸を抜き、ピストンを行うたびに肉ヒダを抉ってくるカリ首は間近で見れば見るほどえげつない形状をしているのがよく分かり、義勇はこれだけで雄としてどちらが優れているのかを言い聞かされている気になってしまうのだ。
 大きさも、長さも、重さも、硬さも、反りも、精液の量だって。
 敵いやしないという男としての惨めな敗北感すら、今や義勇にとっては興奮材料となっていた。
「……錆兎」
 口淫も随分上達したとは言えど、己の拙い性技では錆兎を最後まで満足させてやれるかの自信が義勇にはない。
「……種汁精液、のみたい」
 だからこそ、使って﹅﹅﹅もらうつもりで小さな口を懸命に開くと、媚を売るように、もしくは挑発するように赤い舌を覗かせた。
 義勇が今、求めていること。それらを察した錆兎は悪い男の顔になって、向かい合って座り、口寂しさから亀頭へ何度も角度を変えて口付けを行う義勇の後頭部に手を添える。
 続いて開かれた、義勇の口腔へ。
 ぐうっと奥まで咥えさせれば、義勇の小さな鼻からは苦しげな鼻息がフー、フーと漏れているのが分かった。
 視界の端では、寝間着越しに突き出された義勇の臀部が揺れているのも見える。随分と男好みに育ってしまった、無知で純粋で恥ずかしがりやだったはずの親友の痴態に、言い表せない優越感が錆兎の胸奥で湧き上がった。
 愛らしい癖毛を引っ張らないように気を付けながら頭を掴みつつ、腰を引いてみれば義勇の唾液と己のカウパーがドロドロに纏わりついた陰茎が露わになる。卑猥な光景を一通り眺めて満足した錆兎は、懸命に歯を当てないようにしている健気な義勇の頭を撫でてやり、再び己の怒張を小さな口腔へと収めた。
 その、繰り返し。
 次第に喉を突くようにしてやれば、嘔吐反射によって締まる喉にペニスが締め付けられ、錆兎は心地よさに乾いた己の唇を舐めた。
「あー……喉、締まってる……最高……」
 一見すると酷い行いのようにしか見えないものの、喉を突かれるたびに義勇のペニスからは愛液のごとくカウパーが垂れ流されており、義勇本人がこの行為を悦んでいるのは一目瞭然であった。
 直腸内を雄膣として扱われ、男の狼藉を自ら許し、中イきを覚えさせられ、挙げ句の果てに潮吹きをするようになってしまった義勇の身体は今や射精すら覚束ない。
 性器は中途半端に皮を被ったまま申し訳程度に勃起させて、糸を引いて先走りを垂らす姿は発情しきった雌そのものであり、錆兎に使われることを心の底から望んでいた。
「しんどい? ごめんな、もうちょっと使わせて」
 軽い酸欠によって義勇の顔が赤く染まり、目にも涙の膜が張られ、鼻息もどんどん苦しげなものになっていく。やり過ぎてはないかと心配にはなるものの、本気で苦しければ義勇の腕力さえあれば自分を押し退けることくらい容易であろうという信頼もあるため、ついやり過ぎてしまうところがあった。
 いつもは優しく、暖かで気遣いを欠かさない錆兎が、こんな時ばかりは義勇への気遣いよりも男としての快楽を優先させてしまう瞬間がある。
 義勇はその度に臍の下に熱が溜まるのを自覚し、甘やかしてしまうのだ。
 錆兎を満足させてやれるのは、寵愛を受けるのは紛れもなく自分だけなのだと。優しい彼の、こんな一面をきっと誰も知らない。
 彼が綺麗だ、美人だと絶賛する己の顔が、だらしなく蕩ける様を他でもない錆兎が好んでいると義勇は分かっていながら、イラマチオによってグズグズに溶けた情けない顔であえて錆兎を熱っぽく見つめ、彼の内側に渦巻く貪欲な雄の欲求を満たしてやる。
 苦しいのに、気持ちが良い。
 義勇はヒクつく縦割れの後孔をくぱっと開かせ、発情中で子種を求めて止まない粘膜を覗かせると勝手に中で甘イきをしてしまう。
 喉と同時に括約筋が締まり、腰が揺れ、酸欠によって思考が滞り、脳が溶けていくのだ。
 犯されたい、虐められたい、可愛がられたい、愛されたい、躾けられたい、求められたい。うつ伏せのところを上から覆い被さるように抑えつけられて、結腸を抜きながら耳元では甘やかすように可愛いと囁かれるのに、布団に擦れた乳首を指で抓られてカリカリと嬲るように掻かれ、奥の奥まで形を覚えさせるように突き上げられた後には断りもなく一番奥に子種を注がれたいという、口には出せない恥ずかしい願望が錆兎に聞こえていないかと不安を覚える。
「……出すから、零すなよ」
 そうこうしていると、いつにも増して低い錆兎の声が聞こえた。義勇は行為中に聞ける余裕のないこの声が、大好きなのである。
 後頭部を抑えられながら、もう片手で咥え込んでいる喉を外側から優しく圧され、今から流し込むと宣言されているのが分かった。
 その瞬間、裏筋が脈打ち、宣言通り容赦なく子種が流し込まれる。
 こんな熱を浴びせられたら喉が孕んでしまうじゃあないかと言ってやりたくもなるが、義勇は錆兎が望むまま、躾けられた通り、ごくごくと音を鳴らして嚥下をするしか許されていない。
 布団の上に、なにかが滴る音。ふと、音に気づいた錆兎が視線を下に向けると、義勇のペニスから無色透明の体液が少しばかり溢れ、それが布団を濡らしてしまっていた。
 この、敏感な愛しい人を今日はどうやって可愛がろうかと考えつつ、ゆっくりとペニスを口から抜く。
 義勇は言われた通りに子種を無駄にしないため、口を窄めながら慎重に顔を離した。
「口、開けて?」
 喉に直接流し込まれた分は飲んだとはいえ、長らく溜め込んだ精汁の量を侮ってはならない。
 義勇は錆兎の前にペタンと座り直したあと、零さぬよう口元に手を添えつつ、口腔を満たしている大量の精液を出した本人に見せてやった。外気に触れたことにより、青臭さが一気に鼻を通る。その、あまりに好ましくない風味に、ゾワッと腰が歓喜に震えた。
「うわ〜……我ながらすげぇ出たな……」
 小さく愛らしい、義勇の口内に纏わり付く白濁とした体液。
 射精後の、妙に冷静な頭の部分では薄っすらと罪悪感を抱きはするが、義勇の恍惚とした顔を見るとそれもすぐに忘れる。
「……飲んでいいよ」
 錆兎が許可してから義勇は口を閉じると、味わうように何度か咀嚼をしてから一気に飲み干した。喉に絡みつく濃い精液に一度噎せて、そして最後は全て飲んだことを伝えるように錆兎に向かって再び口を開いて見せる。
 上手に出来たでしょ、褒めて、と義勇の黒目がちな目が言っていた。
「よく出来ました」
 褒めて頭を撫でてやれば、むふー、と義勇がやり遂げたように笑う。
 いやらしさと可愛らしさと美しさが全て程よく混ざり合っている恋人に錆兎は感服し、その魅力にあてられ、またも陰茎がムクムクと元気になっていく。
 どうしてこうも、冨岡義勇という男は常に己を魅了し続けるのか。錆兎はどこか悩ましげな顔をして、朝餉も取らずに昼過ぎまで愛し合うことになるだろうと覚悟を決め、義勇の腕を引っ張り込むとそのまま自然な形で組み敷いた。起きた時と同様に、腹に押し当てられている錆兎の陰茎を見て、義勇が呟く。
「……また勃ってる」
「そりゃあ、勃つだろ」
 これで無反応な男であれば、いっそ不能だ。
 決して己が絶倫なわけではない、義勇が可愛いくて美しいのが良くないのだと、あくまでも制御が効かないのは恋人にも原因があると言わんばかりに錆兎は己を棚に上げる。
 実際、義勇がその場にいない時にどうしても昂ぶってしまった際に行う自慰では、一発適当に擦って吐き出せば満足するのだ。こんなにも利かん坊になるのは義勇の前だけであり、義勇だけに見せる、己のダメなどころでもあった。
 汗ばんで火照っている義勇の頬に錆兎は手を添え、口付けをしようと顔を寄せる。しかし口淫の直後であることを気にしてか、義勇がやんわりと顔を背けて拒もうとするも、それを許す錆兎ではない。そんなことは気にしていない、いいから黙って口を吸わせろと、錆兎が形のいい顎を掴んで強引に唇を重ねた。
 つい先程までペニスを咥え込んでいた繊細な粘膜を、労わって甘やかすように。錆兎によって厚めの舌が差し込まれると義勇は観念したように目を閉じて、太い首へと腕を回す。深い口付けに酔い痴れて、やがて唇が離れた頃には互いに睫毛が触れ合うほどの近さで顔を見つめ、可笑しそうに笑い合った。
 今は少しのいとまに身を委ね、幸せな瞬間を噛み締めたいと。
 義勇が求めるように、錆兎の名を呼んだのであった。