こういうのが好きなんでしょ

 錆兎がサンタと言う存在を信じていたのは、小学校の低学年までである。
 平均で言うと、かなり幼くして真実を知った部類に入るのかもしれないが、これは別に誰かにバラされたりだとか、親に種明かしをされたというわけではない。
 むしろ、男手一つで錆兎を育てた父はいつも全力でサンタ業に勤しんでいたと記憶しており、実際に錆兎は父がプレゼントを用意している場面を目撃したことはなかった。
 ならば、なぜ錆兎少年が幼くして現実を理解したかと言うと、それは単純に当時の錆兎には子供らしさが乏しかったからである。
 念のために言っておくが、これはなにも可愛げがないなどといったネガティブな意味合いではない。彼には昔から妙に達観して、落ち着いている部分があったというだけのこと。
 まず、サンタと呼ばれる、師走の暮れに現れては全国どこでも不法侵入が許され、玩具を配るという、おおよそ外国籍の老人について当時の錆兎は疑問を抱いていた。
 父子の二人暮らしで父が多忙な職種に就いている都合上、錆兎が家で一人でいると言う状況も珍しくはなく、その際の父は口を酸っぱくして戸締りの重要性について説いていたというのに。
 そのような父がクリスマスとなると打って変わって、得体のしれない外国籍の男性の侵入は許すのかと。錆兎は年々、懐疑的になっていた。
 方や周囲のクラスメイトは当たり前のようにサンタクロースという存在を受け入れており、中でも錆兎の幼馴染で親友でもある少年はサンタのためにホットミルクとビスケットを用意して、手紙まで欠かさずしたためていると来た。
 聞けば、朝に起きると用意した軽食はサンタによって完食され、本場らしくフィンランド語で書かれた手紙への返事もあり、それを父が訳して読んでくれるのがいつものクリスマスなのだと。
 今にして思えば、親友のは海外出張も多い多言語話者で、語学に堪能な御仁であった。だから彼の家に訪れるサンタも、そのような芸当が可能であったのだろう。
 今でこそタネも仕掛けもあるのは丸わかりなのだが、それらの話を聞いた幼き錆兎は、ほう、と感心したものだ。
 サンタとは、コミュニケーションが可能な存在だったのかと。少年は少しの期待を胸に、その年のクリスマスに初めて、サンタへの手紙を書いてみたのである。
 内容は、いつもお疲れ様です、ご足労いただきありがとうございますと言うなんともビジネスメールじみたものであったが。
 そして、迎えたクリスマスの朝。なんと錆兎にもサンタからの返事があったのだ。
 親友曰く、サンタからの返事は毎年違うクリスマスカードが用意されており、開くとメロディが流れるなどの仕掛けがあると聞いていたのだが──錆兎宛に置かれてあったのはクリスマスカードなどではなく、至って一般的な、A4コピー用紙が一枚。
 中を開いてみるも、話で聞いていたようなラメが含まれている鮮やかなインクで書かれた文字はなく、実際はどこにでもある黒のボールペンで、手紙への返事は書かれてあった。
 もちろん、錆兎への返事はフィンランド語なわけもなく、全てが日本語。それも、常日頃から「晩飯は冷蔵庫にあるのでチンしなさい」と書置きをしてくれている、見慣れた父の筆跡であったのだ。
 錆兎はそれで全てを理解したが、ショックを受けたかと言うとそうではない。
 サンタクロースの正体は父であったとして、それでもいつも年末年始まで忙しくしている父が、わざわざ息子である自分の為に混雑するであろう売り場に並んで、せっせとゲームソフトを買って来てくれていたのは揺るがない事実である。
 むしろ、得体の知れない外国籍の老人がプレゼントを用意してくれるというファンタジーよりも錆兎にとっては喜ばしいことで、その日の朝食は余り物とはいえ普段より品数も多い、やや豪華なものを用意した。
 無精髭を顎に生やした寝起きの父は嬉しそうに食卓につくと、サンタからプレゼントはどうだったかと息子に問う。当時の錆兎は子供用の小さなエプロンをハンガーにかけながら、父に微笑んで「最高だったよ」と答えたのだった。
 あれから十年以上が経ち、錆兎の元にサンタクロースも来なくなって久しい。
 代わりにあの時、サンタから届く手紙の存在を教えてくれた親友──義勇とは今や恋人関係でもあり、サンタは来なくなってもクリスマスには二人でイルミネーションを見に行ったり、プレゼントを交換し合ったりするという特別な日となっていた。
 そして、今日は他でもないクリスマス当日。
 恋人らしいデートやディナーなどの楽しみを一通り終えた後。錆兎は寝室のベッドの上で、義勇がシャワーを終えて出て来るのを心待ちにしていた。それはまさに、サンタクロースを待ちわびる子供のように。
 しかし服装はパジャマ姿などではなく、普段から履いているボクサーパンツ一枚で、いかにも風呂上りと言う装いであり、男の鍛え上げられた張りのある肉体も相俟ってか可愛らしさは皆無であった。
 待つこと一時間弱。脱衣所のドアが閉まり、二人が愛を育む六畳間の寝室の戸がわずかに開くと錆兎は弄っていたスマートフォンをサイドテーブルへと起き、ベッドに横になったまま引き戸の隙間を凝視する。
「……錆兎」
 中途半端に開いたドアの向こうで、未だ姿を見せない義勇が情けない声で錆兎を呼んだ。
「どうした、早く入ってこい」
「……なんというか、やっぱり……いろいろとこれは厳しいと言うか」
 幼い頃から変わらず、恥ずかしがりな義勇が気まずそうにしている理由なんてのは錆兎も分かりきっている。
 他でもない、錆兎が手ずから用意して「着て欲しい」と義勇へダメ元で頼んだ衣装﹅﹅についてであった。
 二人はとある一件から、たまにこうしてセックスの際にコスプレ衣装を錆兎が見繕い、義勇に着てもらっては楽しむということが定番化しつつあり、義勇は自身が蒔いた種とは言え現状については薄っすら危機感すら抱きつつある。
 けれど、義勇も本当に嫌なのであれば渡された衣装を受け取らずに、二人の仲なのだから「調子に乗るな」とそのまま押し返してやればいいのだ。
 それなのにモジモジしつつも受け取って、挙げ句の果てには律儀に袖を通している時点で、羞恥心はあれどそこまで嫌がっていないのは明らかというもの。
 正直、義勇は錆兎になにかを期待されることに、信じられないほどの幸福感を覚えてしまう。それがたとえ、性的なことであっても。こればかりは錆兎を想うあまりに幼い頃から徐々に培われていった義勇の素質ともいえるので、今さら改善しようがない。
 その本質も見抜いているからこそ、錆兎とてディスカウントストアなどに置かれている安っぽい衣装の中から、義勇に似合いそうなものがあれば問答無用に買って来るようにまでなってしまった。
 もともと、そういう趣味が錆兎にあったわけではない。こればかりは、義勇のうっかり﹅﹅﹅﹅が目覚めさせてしまったと言った方が適切であろう。
「お前、この前は自分で紐みたいなパンツ買ってたのになんでコスプレだけそんな」
「ちちちっちッちちちがう! あれっあれはッ! 二人で酔っぱらっていた時に一緒に選んだんだろ!」
「そうだっけ」
「そうだっ! 俺が脱がされる前提なら何着ても恥ずかしくないかもって言ったら、錆兎がじゃあパンツで良いだろパンツ買えよとか言ったから! いいい勢いで買ったんであって俺はそんなふしだらな思考回路はしていないッ」
「ふしだらて」
 錆兎の言葉を訂正するため、ようやく義勇はドアの隙間から顔だけを出す。その頭にはベルベット素材で出来た、いかにも浮かれたサンタ帽が乗っており、長い黒髪は結われずにそのままであるらしく義勇が何かを話す度に愛らしく両サイドから揺れていた。
 照れたような怒ったような、もしくは拗ねたような赤い顔でムキになって、何かを必死に主張している恋人に錆兎の口角は素直に上がっていく。
 表情や仕草だけで、既に可愛い。
 これは、今日もオレの義勇が世界で一番べっぴんで可愛いんじゃあないかと、昼間のデート中でも散々思い知らされた馬鹿馬鹿しい真理だ。錆兎は寝ころんでいた姿勢を正して、ベッドの縁へと腰かける。
「義勇、見せて」
 有無を言わさぬ顔で言うと、数秒間の沈黙。
 そしてやがては観念したらしい義勇が、おずおずと戸の影から出て来た。
 そんな、ようやく錆兎の目の前に現れた義勇だが、彼の歩き方が蟹のように変な横歩きとなってしまっているのは──膝上三十センチほどのかなり短いワンピース丈を、無理やり下へと引っ張って伸ばしているからである。
 おまけにワンピースのサイドには太ももから臀部のラインを露出させるように大胆なスリッドまで入っており、義勇の手はもはやどこを抑えたらいいのか分からない有様で、先程から何度も布を手繰り寄せていた。
 今日の衣装はなんと言ってもクリスマスらしく、定番のミニスカサンタである。
 頭で揺れている帽子と同じく、真っ赤なベルベット素材で出来たワンピースには白いファーやレースなどがあしらわれていて大変愛らしい。なによりオフショルダーとなっているため、義勇の白いデコルテが羞恥から赤くなってしまっているのもよく分かるのが、色っぽくて素晴らしかった。極め付けは胸元で律儀に結ばれている大き目の赤いリボンで、可愛らしさを引き立たせるための装飾のはずが逆になんとも言えない安っぽさを演出しており、むしろそそられる。
 義勇ほどの繊細で無駄のない美人に、こんなにもチープで下品な衣装を下心から着せていることの背徳感とでも言うべきか。
 アンバランスさは否めないと言うのに、それでもこの手のコスプレが不思議と似合ってしまう我が恋人に錆兎は感動すら覚える。
「それ女モンなのによく入ったな」
「貧相だと言いたいのか」
「まさか。可愛いよ」
 愛おしそうに微笑む錆兎に、顔をしかめる義勇。
「よくもまあ、いけしゃあしゃあと……」
 本来のターゲット層である女性が着れば、可愛らしいミニスカート丈のワンピースとなるのだが。
 仮にも一七六センチという、小柄とは言い難い義勇の身長を錆兎が一切考慮していなかったために、可愛らしいと言うよりも艶かしい丈感になってしまったのはご愛嬌。成功と言うべきか、見通しが甘かったというべきか。
 何はともあれ今日も楽しく過ごせそうだと、錆兎は目の前に立った義勇の爪先からサンタ帽についた白い毛玉のポンポンまでを視線でなぞり、なにかに満足したのか大きく頷く。
「いやあ、一年良い子にした甲斐があったな……」
「良い子はクリスマスの夜にパンツ一枚でサンタを待ち構えたりはしない」
 ごもっともである。サンタを純粋に信じていた幼少期ですら、錆兎は静かにサンタの訪れを寝て待っていた。
 しかし恋人の辛辣な指摘に対しても錆兎は浮かれたように笑うだけであり、義勇は居たたまれない気持ちと羞恥心が入り混じって、どのような顔をすればいいのかが分からない。この格好の自分が、なにがそんなに良いのかが義勇には相変わらずさっぱりであった。
 確かに、身体の曲線がなめらかで、柔らかそうな女性であればこういったテイストの格好も華やかに着こなせるであろう。錆兎以外に興味がなく、男の浪漫とやらがイマイチ理解出来ていない義勇であっても、その程度のことはギリギリ理解出来た。
 けれど、あくまでも義勇はその辺によくいる至って男子大学生らしい体型で、錆兎ほどの鍛え上げられた張りのある筋肉があるわけでもなければ、痩せすぎて骨が出ていると言うわけでもない。非常に平均的な、骨格によって上半身の薄さが目立つだけの義勇は錆兎をそこまで惹きつける魅力的なプロポーションではないはずなのだ。
 そんなことをあれやこれやと難しく考える義勇が意識を遠くに飛ばしていると、不意に手首をやんわりと掴まれる。視線を向ければ、ベッドの縁に腰かけた錆兎が好奇心に満ち溢れた幼げな顔で微笑んでおり、そのまま腕を引いて義勇を脚の間に座らせると背中から抱き込んだ。
 その拍子に下着が見えそうになり、義勇は慌てて足を閉じるが己の仕草の女々しさに嘆きたくなってくる。
「そ……そもそも、こんな馬鹿げた服を着るのが俺ばかりというのは不公平だ。来年は錆兎も何か着るべきだろう」
 ミニスカサンタに扮した義勇を抱きしめると、錆兎の大きな手は今にも捲れそうな裾の上から太ももを撫でた。
「例えば?」
 同じシャンプーを使っているはずなのに、義勇の頭皮や髪はどうしてこうも甘ったるく心地のいい香りに感じるのだろう。相性の良い遺伝子同士であると、そのように感じると何かで見たことを薄っすらと思い出しながら、帽子からはみ出た愛しい癖っ毛に錆兎は顔を埋め、その手はゆっくりとワンピースの裾の内側へと入っていく。
「……け、警察官とか……神父とか……」
「ベタだな~」
「俺にサンタのコスプレさせてる奴が言うセリフか?」
 ボケ倒しているようで、意外と鋭い義勇の言葉が面白い。
 セックスをする前の、雰囲気もなにもない言葉のやり取りが錆兎は好きだ。己以外の相手とも義勇が積極的に言葉を交わせば、誰しもが彼のユニークさに気付いて交流も広がりそうなものだが、あいにく義勇は幼い頃からドのつく人見知りで引っ込み思案なのである。
 その割に親切にされたり優しくされたりすると、相手をすぐに良い人だと認定してしまう程度には単純で人懐っこい。けれど内なる好意が中々表に出ないので、義勇が一方的に好意を抱いていようと向こうからすれば物静かな人という印象で止まるのが、いつものこと。
 錆兎はそんな義勇の性格を勿体ないと思う反面、それでいいと男の醜い独占欲が顔を出していた。
 義勇が可愛くて綺麗で、面白くて優しいところは自分だけが独り占めしていたい。
 頼めば恥ずかしがりながらもコスプレだってしてくれる甘さだって、親友で恋人でもある自分だけに見せていて欲しいと思ってしまう。
「んっ……」
 裾の中に滑らせた手が、義勇の内腿を撫でた。
 薄い上半身に比べ、やや肉付きの良い下半身は手のひらに吸い付くような肉感があり、普段は人に肌を見せることもない義勇の身体がこんなにも情欲をそそるものであることもまた、錆兎だけが知っている。
 今日も今日とて恋人が可愛い。
 あざといくらいのワンピースも、義勇が着れば不思議と絵になるのは贔屓目によるものということは男も重々承知であった。
「……あれ? これなに?」
 ふと、義勇の脚を撫で回していた錆兎が子供の悪戯に気付いたかのように目を細める。
 そう言えば、これだけ短い丈のワンピースを着ているにもかかわらず、義勇がいつも履いている地味なトランクスの裾は見えていなかった。
 だが太ももを撫でていた際、指に当たった紐の結び目のようなもので合点がいく。錆兎の期待したような視線に耐えきれず、義勇はやや伏し目がちになると控えめに頷いた。
「……履くタイミング、なくて……」
 言いながら、義勇は自らワンピースの裾をゆっくりと持ち上げて見せる。
 露わになっていく、弾力も十分な白い太もも。その側面には細い紐が垂れており、それは義勇が酔った勢いで先日購入してしまったセクシーランジェリーの部類であることを確信した錆兎は、脳内で力強くガッツポーズをする。
「へぇ、履いてくれたんだ?」
 下着を自ら見せることには中々踏ん切りがつかないのか、太ももだけを見せた状態でモジモジしている義勇を見つめ、錆兎の太く骨ばった指がサイドから垂れる華奢な紐を撫でた。
「……錆兎が、喜ぶから……」
 二十歳過ぎた男がこんなもの、恥ずかしい、みっともないという意識はあるのに、それすらを上回るのが愛する恋人の喜ぶ顔が見たさである。
 ムッツリからは程遠い、良いものは良いと声を大にして真正面から伝えてくる男らしさに溢れた錆兎の目は、やはり義勇が思った通りに嬉しそうに輝いてはいるが瞳の奥のギラつきは隠せまい。
 デートの際も、クリスマスプレゼントとして錆兎が好きなスポーツブランドの腕時計を渡したのだが、その時の錆兎も心の底から喜んでくれた。
 早速、腕時計を自分の腕に着けては「似合う?」と繰り返し聞いてくる姿は胸が締め付けられるほど愛らしく、続けて、嬉しい、欲しかったんだと話す眩しい無邪気さは直視できないほど。
 義勇は見事に骨抜きにされ、今日もまた錆兎に惚れなおしていた。
 しかし、いまの目の前にある錆兎の表情は、あの愛らしさとは異なる。
 雄の顔。
 セックスをする時、義勇を内側から惨めに犯して、自分の子種で腹を満たしてやりたいという深い欲望が滲んだ顔であった。
「……見せて」
 低く、錆兎が言う。
 義勇の顔が耳まで赤く染まっていることも分かった上で、あえて本人から見せて欲しかった。
 これも少し前であれば、こんなことを義勇に要求するのも憚れたであろう。
 けれど、義勇から遠慮なんてしなくていいと本心を告げられてからの錆兎は、良い意味で欲望に忠実になっていた。
 義勇も、錆兎がああして欲しい、こうして欲しいと要求してくること自体は心から喜ばしいことである。それでも、羞恥心がなくなるわけではない。
 一度、目を強く瞑ってから、義勇は意を決して握りしめたスカートをたくし上げる。
 その下には──体格相応の大きさである義勇のペニスを、なんとか覆う布が一枚。
 しかし薄っすらと陰茎のシルエットも全てが見えてしまっていて、もはや下着としては一切成り立っていなかった。
 ペニスを飾る布は確かに小さくはあるものの、美しいラメ糸が織り込まれ、色は淡いピンクの生地が使用されており、細部の節々から上品な色気を感じられる。
 細やかな花の刺繍も施され、縁には繊細なレースやフリルがたっぷりあしらわれているさまはデザイナーの強い拘りが感じ取れた。
 こういうの、男はグッとくるでしょうと見透かされているような気持ちになるといえばいいのだろうか。
 なにより、光を反射する艶っぽさのあるサテンリボンがアクセントとなり、程いい甘さを醸し出しつつも、伸びた華奢なストリングが義勇の細い腰元を色っぽく飾っている──いわゆる紐パンを前にして、錆兎は素直に〝良いな〟と噛みしめる。
 加えて臀部の部分を覆う布はなく、紐のみのTバック構造になっていることに目敏く気付き、もはや笑みが止まらない男の口からは「おお……」と興奮混じりの声が漏れ、なんとも楽しそうであった。
 対する義勇は、耐え切れない恥ずかしさにより首元まで顔が赤く染まり、目は潤んで口元は固く結ばれている。
「義勇って結構、なんかこういうフリフリヒラヒラしてるやつ似合うよな。前のエプロンも中々可愛かったし、こないだのメイド服も」
 言いながら、錆兎は義勇のペニスを下着の上から形をなぞるように指で撫でた。
 サンタ服を着てくれ、と言ったのは確かに錆兎からの要望ではある。だが、それを承諾し、彼が喜ぶだろうかとこんな下着まで履いたのは間違いなく自らの意思で、義勇は居たたまれなくなると眉を八の字に寄せた。
 錆兎の指の腹が、スリスリと透けた小さな生地越しに動くのがもどかしい。こんな些細な刺激にも敏感に反応する自分は、もしかするととんでもない変態なような気さえしてくる。
「ぅ、う……」
 女性らしい可愛いさが際立つ衣装や下着とは裏腹に、焦らすような錆兎の指の動きに対してまるで自分は男であることを主張するかのように、義勇のペニスが膨張し始め、徐々に小さな下着を押し上げた。
 しまいには、仮性包茎ゆえに中途半端に皮を被った状態の亀頭が下着からはみ出てしまい、その尿道からは先走りが滲む。
 錆兎はなにも、義勇を女に見立てて興奮しているのではない。男の義勇に、このような格好をさせている状況がたまらないと言うのが正しく、たとえサンタ服が義勇に似合ってなくとも錆兎はおおよそ満足したに違いなかった。
 けれど良いのか悪いのか、なんだかんだと結局すべて似合ってしまっているのが義勇である。
 錆兎は意地悪そうに微笑むと、下着から露出してしまっている義勇のペニスを大きな手で優しく覆った。
 義勇の肩が、錆兎の体温に怯えるように跳ねる。
「……興奮した? それとも恥ずかしい?」
 ゆっくりと扱いてやるものの義勇は厭々と幼く首を横に振るばかりで、それすらも錆兎を煽る仕草であることなど本人は知りもしない。
 指で先走りを掬い、竿へ塗り付けてから上下に擦ると、くちゅくちゅと濡れた音が聞こえ始める。
「あっ……やだ……」
「ここんとこ、ずーっとケツ掘られて潮吹いて中イきばっかしてんもんなぁ。久々に前でイってみる?」
 最後にちゃんと射精をさせてやったのは、果たしていつだったか。下手をすれば数か月に義勇が裸エプロンで奉仕をしてくれた時にまで遡りそうな気がして、錆兎は気まぐれに手淫を続けた。
「ほら、義勇。お前もちゃんと腰動かせ」
「ぅ、う……さび、さびと……」
 錆兎の手が上下するのに合わせ、義勇が拙く腰を振る。その度にたくし上げられたスカートと頭の間抜けなサンタ帽が揺れ、筆舌に尽くし難い、男としてこみ上げるものがあった。
 義勇の白く長い脚がどんどん開き、腰がヘコヘコと情けなく揺れる。後孔を性器に見立てて結腸を犯されることに悦びを感じる義勇が、錆兎の手を使って自慰に浸っているのが可愛い。こうしてペニスを弄られている間も、後孔をヒクつかせて中が物欲しそうにうねっているであろうことは確認しなくてもわかる。
 義勇は容姿端麗で頭もよく、育ちも家柄もいい。おまけに性格は穏やかで素直で思慮深く、愛情深い人だった。一方で人見知りで引っ込み思案なところがあるものの、そんな一面も愛らしいと思える程には魅力に溢れており、錆兎にとって自慢の恋人と言える彼は、それはもう本来であれば女性から引く手数多の男に違いない。
 だが、この有様である。
 卑猥な下着を自ら履いて、女装じみたコスプレをして、腰を振れと言われて自ら恋人の手に性器を擦り付け、擬似性交に勤しむ惨めな姿。
 醜い支配欲が己を満たしていくのが分かり、錆兎は乾いた唇を舐める。可愛いなあ、コイツはと錆兎は目を細めた。
「で、る……でる、さびと……」
「もう?」
 こく、と頷く義勇の開かれた足はガニ股気味となっていて、久しいペニスへの刺激に眉が切なげに寄せられる。
 こんな様子ではもう、女は抱けないだろうなぁと、そもそも抱かせる気など微塵もないくせにハリボテの哀れみを抱きつつ、中途半端に剥けたペニスの皮を指で全て剥いてやり、露わとなった色素の薄い亀頭を指先で摘んだ。ぱくぱくと開閉する先端の尿道からは愛液のごとく薄いカウパーが垂れており、それが糸を引いて己の手を汚すのを眺める錆兎は、徐に太い指先を義勇の尿道に咥え込ませ、ゆっくりと抜き差しを行う。
 慣れない刺激を受けた義勇が思わず逃げ腰となってしまうが、もちろん錆兎は逃してやらない。
 義勇の繊細な粘膜を愛でるため、限界まで短く整えられた爪で尿道の内側を擦るようにカリカリと掻いて、ギチギチに広がるところまで指を咥えさせてやった。
 まだ﹅﹅、ここは開発も何もしていない。不慣れなことを無理強いするのは錆兎の好みではないため、今も当然ながら指のほんの先しか埋めていないのだが、義勇の反応を見る限り嫌ではないらしいということが窺える。
 たしか、ここを刺激するアダルトグッズもあったよなあと、錆兎は好奇心に駆られて物騒なことを思いつきながら、濡れた粘膜を広げるようにグリグリと今にも射精寸前の尿道をほじった。
「っ、やっ……あ、いやだ、ぅ……でっぅ、でる、出ぅ……っ♡」
 酸素を取り入れるためか開きっぱなしとなった義勇の小さな口からは赤い舌が見え、錆兎は好物でも見つけた子供のように背後から肩越しにこちらを向かせると、すかさず唇を重ね、舌へと吸い付いて舌のざらつきを擦り合わせるように深いキスをした。その間も少し広がった気がする義勇の尿道内を、指で円を描くようにして内側を満遍なくグルっと掻き、刺激を続ける。
 口も、敏感なペニスの内側も同時に虐められ、堪え性のない義勇はガニ股に開いただらしのない内腿をガクガクと痙攣させて、呆気なく一度目の絶頂を迎えた。
 達した直後の余韻に浸るように、義勇の腰が揺れる。
 錆兎がゆっくりと指を抜けば、ぽっかりと開いてしまった卑猥な尿道口からはドロっと押し出されるように白濁とした精液が垂れ、それは射精というにはあまりに勢いがない。
 義勇の歯の裏や歯茎まで隅々を味わい、口腔を貪っている最中の錆兎はそんな弱々しい射精を見届け、萎えたペニスからは未だ手を離さず、目を細めると気まぐれに手淫を続けることにした。
 解放してくれない錆兎に、動揺から強張る義勇の身体。キスをされながらも、おおよそ「やめろ」だのなんだのと抗議をしているらしい声が時折漏れても錆兎は舌を絡めて黙らせ、抵抗する身体も押さえつければ大人しくなる。声も出せず身動きもろくにとらせないまま、義勇が吐き出した精液をペニスに塗りつけ、摩擦をなくした状態にすると泡立つほどに激しく扱く。
 ここまで刺激されてもなお、たった一度射精をしただけの義勇のペニスは柔らかいままで、完全な勃起にも至らなかった。
 射精もせず、僅かに硬度を持つだけの敏感な部位。
 これでは大きなクリトリスと言っても遜色ないなと、そのような恋人の有様に同情すればいいのか反省をすればいいのか錆兎にも分からなかったが、ただただ気分は良かった。
 今や口元を唾液で汚した義勇の目の焦点は、どこも見ていない。
 スカートをたくし上げていた手もやり場もなく拳を握りしめるだけで、されるがまま。錆兎が空いた方の手を胸に這わせ、生地の薄いチープなサンタ衣装の上から乳首をキュッと抓るとフーフーと鼻息が荒くなる。
 唾液を啜り、舌を吸って義勇をキスから解放してやれば、掠れたような喘ぎ声が断続的に聞こえ、錆兎は義勇の赤い耳へと口を寄せた。
 耳の縁に恭しくキスをして、そして囁くように低い声で告げる。
「イけ」
 瞬間、義勇の脳裏には電撃が走る。バチバチと視界が明滅し、身体が義勇の意思とは反して大きく痙攣した。射精後も扱かれ続けたペニスの、今もなおヒクつく尿道からはプシッと炭酸飲料の栓を抜いたような音がして、直後に無色透明な体液が失禁と見紛う勢いで床へと吐き出されていく。
 腰をのけぞらせ、開いたままの口から垂れた唾液で顎を濡らしている状態の義勇を襲う、深く、長い絶頂。
 錆兎に犯されることで頭がいっぱいになり、セックスのことしか考えられなくなる瞬間が訪れる。自分が自分でなくなるようで、怖くてたまらないのにそれが気持ちよかった。
 臍の下がじわっと熱くなり、己がみっともなく発情していることを認めざるを得なくなる。男の本能として抗いたくなる気持ちと、錆兎に中もたっぷり愛されたい欲求が拮抗して、義勇は意識を朦朧とさせた。
「こりゃ床にもバスタオル敷いといた方がよかったか」
 達する際に潮を吹きがちな義勇を見慣れているためか、床に出来た水たまりを錆兎がなんでもない風に見下ろす。一方、義勇にはそんな声すら聞こえていないようで、朦朧とした思考を起こし、呼吸を整えることに必死になっていた。
「……じゃ、オレも良くしてもらおっかな」
 激しく身悶えた際にサンタの帽子も脱げてしまっていたらしく、腕の中で震える義勇の髪に顔を埋め、甘い芳香がする汗ばんだ頭皮を嗅ぎながら錆兎が楽しげに言う。
 脱力した膝上の義勇の背後から手を回し、ズレた下着や乱れたリボンなどを最低限整えてやると──ベッドの中心に、うつ伏せ﹅﹅﹅﹅で寝かせた。
 強烈すぎる絶頂の後で無抵抗な義勇は、今もされるがまま。
 そんな恋人を尻目に、錆兎はミニ丈のスカートを満を持してゆっくりと捲る。
 案の定、下着は臀部の双丘を布で覆っておらず、割れ目に一本の紐が通っているだけの構造であった。それはいわゆるGストリングと呼ばれるTバックではあったが、錆兎がそんなファッショナブルな専門用語など知るはずもない。
 極小生地で出来た下着を前にして思ったことは、エロいなという至ってシンプルな感想であった。
 丸出しの、肌理の細かい柔らかな臀部へ手始めに触れると指が沈む。
 尻を揉まれている義勇からは「ん、ぁ」と控えめな声が聞こえ、錆兎の口元には笑みが浮かんだ。手のひらで肉の感触を十分に味わったあと、最後にぐにっと大きな臀部を左右に開く。
 その狭間にあるのは、これまで何度も錆兎を受け入れてきた後孔。太く長い怒張によって奥まで拡張され、度重なる刺激によりふっくらと厚みを帯びた肉輪がぱっくりと縦に割れているのが見える、はずであった。
「おぉー……これも似合ってんな」
 しみじみと、錆兎が言う。
 錆兎に散々、可愛がられ雄膣と成り果てた肛門はすぐに愛してもらえるようにと行為前のシャワーで洗浄済みなのはいつものことだが、今日は中も義勇の指が届く範囲まではある程度まで慣らし、ローションも仕込んであった。
 錆兎にじっくりと中を指で広げられることも義勇は大好きではあるものの、そのような前戯には同時に焦ったさも生じる。だからこそ、すぐにでも錆兎が欲しい、そんな日は洗浄以外にもある程度の準備を義勇は済ませてくることがあったのだが──今日は、錆兎に早く愛されたいという思いの他に、別の理由もあって中を丁寧に解すに至った。
 以前、義勇が妙に先走った結果、錆兎がコスプレだのアダルトグッズなどを用いたセックスに若干目覚めてしまったところはあったが、今回もその﹅﹅延長線と言えるだろう。
 クリスマスデートからの帰宅後。いつも通り風呂に入って準備をしてくると言う義勇を引き留めた錆兎はサンタ服と共に、あるものも渡していた。
「かわいい」
 割り開かれた臀部の間にある、汗や体液でやや蒸れている後孔は、なにかをずっぷりと咥え込んでいる。
 それは、紛れも無い。
 ガラス製の、至ってシンプルなティアドロップ型のアナルプラグであり、底面には宝石を模したパーツが埋め込まれているものであった。
 朦朧としていた意識も戻ってきつつあった義勇は、いつまでも慣れない恥ずかしさにシーツを握って目を瞑る。
 今日のデートの際に錆兎からもらったクリスマスプレゼントは、義勇が以前から購入を考えていたコンパクトが売りの財布と、小さなリングケース。以前、記念日に錆兎から新たなペアリングをもらったことで高校生の頃に貰った古い方の指輪を外したはいいものの、それを小物入れに入れておくのは寂しいと義勇は感じていた。そして綺麗に飾れるようなケースが欲しいと義勇が言っていたのを錆兎は覚えていたらしく、中の指輪が見えるような窓付きの小さなリングケースをプレゼントの一つに選んだのである。
 錆兎はいつも、義勇が何気なく言った言葉をしっかりと覚えていた。プレゼントも自分が何を渡したいかではなく、義勇が欲しいものを的確に選び、喜ばせようとしてくれているのが伝わってくる。
 その気持ちも全てが嬉しくて、義勇は帰宅して早々に小物入れにしまっていた古い指輪を貰ったリングケースに飾り、あらゆる角度から眺めては錆兎に改めて感謝を伝え、財布もケースも大事にすると感激しながら言うと「実はまだプレゼントあるから」と彼が言った。
 だが、それがまさか──サンタ服とアダルトグッズだとは誰が思うのか。それも、アナルプラグに至っては宝石を模した飾りつきと言う無駄なこだわりよう。
 デートでの雰囲気やムードは一切崩さず、錆兎はずっとスマートにエスコートをしてくれた上に、甘ったるい時間も過ごさせてくれたので義勇にはもちろん文句はない。けれど、それにしても切り替えが早いというか、テンションの差が大きすぎると言うか。
 とは言うものの、義勇とてクリスマスデートのあと、前に酔った勢いで購入した下着をセックスの際に履いてやろうとは考えていたので、結局はどっちもどっちなのかもしれない。
「義勇、腰あげて」
 ほとんど紐状の下着と、咥え込んだアナルプラグをしばらく眺めた錆兎から声がかかり、義勇は羞恥のあまりいっそ寝たふりでも決め込むべきかと思いはしたが、本心では恥ずかしさと同じくらいに興奮もしている。錆兎になにをされるのかを、期待している自分がいた。
 だから、抵抗などできるはずもない。
 錆兎に言われるがまま、観念した義勇は尻を突き出すような形で腰を上げると、言われてもいないのに自らの両手で臀部を開く。体液やローションで割れ目は濡れそぼり、視線を感じてキュッとアナルプラグを締め付けている後孔がそこにはあった。
「なんかさ、これ系見てたらファーで出来てる動物の尻尾つきみたいなのもあったんだよな。首輪とか、猫耳つきのカチューシャとかもセットでついてんの」
 なんてことのない雑談のように話しながら、錆兎の指が底面のストッパー部分を摘む。
 抜きはしない、絶妙な力加減でグッと手前に引っ張られ、異物を頬張る括約筋が勝手に締まった。
「面白そうだろ。今度買うか」
「っ……あ、ぅう……〜……っ♡」
 肉輪の締め付けを楽しむかのように一定の間隔でプラグを引っ張られ、焦ったさに腰が揺れると萎えたままの柔らかなペニスも釣られて一緒に揺れてしまう。
 みっともない、でも、気持ちがいいが上回るのだ。
「義勇はそういうの似合うだろうし」
 今では錆兎に興奮され、欲情されることが嬉しくて仕方がない。
 服従するように触れられてもいない結腸が、勝手に開いて降りてきてしまうのを感じた。
 錆兎だって本当は、早く中に挿れたいに違いない。
 膝に座っていた時も、下着越しに大きなペニスがずっと腰の方に当たっていたのを感じていたのだから。
 錆兎の手によって発情してしまった以上、義勇は乱暴にプラグを引き抜かれ、そのまま押さえつけられて躊躇なく奥までねじこんでくれたって構わないとさえ思っている。それなのにいつまでも直接的な刺激を与えられず、咥えたプラグを押し込まれたり引っ張られたりするだけの現状に、義勇はとうとう抑えていたものが溢れてくるのを感じた。
 身体の奥がずっと疼いて欲しているのに、いつまでも手前ばかりを捏ねられても苦しさが勝る。
「さ、びと……」
 名前を呼ぶと、プラグを弄る錆兎の手の動きが止まった。
 この時、己が焦れているのも含め、彼の目論見通りなのかもしれないと義勇はぼんやりと考える。
「……いれて、くれ……おねがい……」
 正解は、分かりようもないけれど。
「……錆兎の、おれの中にいれてほしい」
 義勇が鼻を啜って懇願すると、体温の高い錆兎の大きな手が臀部の丸みを確認するように撫でた。それだけで義勇の白い二の腕には鳥肌が立ち、思考が遠いて意識もフワフワとする。
 欲しい、欲しい欲しいとそればかりになって、もう一度「おねがい」と義勇が切なげに鳴いた。
 背後で膝立ちとなっている錆兎の視線は、物欲しげな後孔が飲み込んだプラグへと向けられている。
「……無理ならいいんだけど」
 義勇の溶けた脳に、落ち着く低さの声が耳から染み込んだ。
「力んでさ、手使わずこれ抜いてみて?」
 なにを、とはすぐに分かる。
 爪の先で、プラグの底面についたプラスチックの石をノックされ、カチカチと軽い音がした。 
「できる?」
 錆兎が言う、無理ならいい、とは本当に嫌ならしなくていいという意味である。
 根拠として彼の言葉には圧もなく、なにより義勇が恥ずかしがりなことは錆兎が一番分かってくれていた。
 ただでさえふざけたコスプレをして、プラグを咥え、紐でしかない下着まで履いてくれている義勇に、これ以上恥ずかしいことを強く要求するのは恋人として罪悪感すらあるのだろう。だからこそ、ダメ元で言っているに過ぎない。
 これは、純粋な好奇心だ。
 美人で綺麗な恋人の、恥ずかしくて下品な姿が見たいと言う、ただの男としての欲求からくる〝おねだり〟に他ならない。
 義勇からすれば、自分にそのような関心を愛する彼が抱いてくれるのは喜ばしいのだが、錆兎のこの好奇心はどこからくるものなのかは、正直のところ全てを理解することは出来ないでいる。厳密に言うと、四捨五入すれば一八〇近い背丈もある男にミニスカートを履かせて喜ぶ心理も、どうせセックスの際には抜いてしまうのにプラグを挿れて欲しがるのも、履いていないのとほとんど変わりない透けた下着を見て喜ぶのも。
 男のロマンだ、分からんかと錆兎に熱弁されようと、女性のヌードを見たとて「裸の女性だな」という感想が第一にくるような感性の義勇が読み取れる男のロマンとは、表面上の、本当に薄い膜のような部分を辛うじて理解できる程度であった。
 確かに、錆兎に白衣だのスーツだのを着せて、医者や教師のような振る舞いをされたりでもすれば悶絶する自信が義勇にもあり、似たような感覚は共有できる。
 とは言え、それらはあくまでも錆兎に魅力があるからこそ、成り立つのだ。
 義勇は自分自身に、錆兎がそうまでして興奮するような要素がどこにあるのか、皆目見当がつかない。だから錆兎がここまで興奮してくれようと、頭のどこかで一瞬、冷静になるのだ。
 ここで調子に乗り、実際に言われた通りにやったとして、錆兎に「なんか思ってたのと違うな」と萎えられたらどうしようかと、たとえセックスの最中でも義勇の自己肯定感の低さは健在である。
 腹筋を使っていきみ、プラグを押し出すと言う疑似排泄に近いことをしたとして、それの何が錆兎のどこを満足させられるのか。
 分からない。それなのに、大好きな錆兎に恥ずかしいおねだりをされるとどうしようもなく、幸福物質が脳からドバドバと分泌されてしまう。
 やれやれ、錆兎ったらしょうがないなあ、という気持ちになるのだ。
 流石にそれは断ろうと、一瞬は思うのに。
 できないと、言うべきなのに。
「……で……できる……♡」
 大好きな錆兎が見たいと言うのなら、できる限り尽くしたいと思う。
「ぉっ……ぐ」
 義勇は潰れたような四つん這いの体勢をとったまま、自ら広げた尻を突き出して腹筋に力を入れると、なんとか中のプラグを腸の動きだけで追い出そうとした。
 先述したようにティアドロップ型と言うシンプルなプラグの形状からして、少しでも力を抜けばすぐにストッパーまで飲み込んでしまい、振り出しに戻ってしまう。しばらくは押し出しては呑み込み、押し出しては呑み込みを繰り返し、自慰でも行っているような状態が続いたが流石の学習能力の高さと言えようか、早くも義勇は力の入れ方にもコツを掴みつつあった。
「えらいえらい。出てきてる」
「ぁ、ぅ……♡ ぉっ♡ ぁ……っあ〜……あ、あっ」
 義勇は、鈍臭さと利発さのバランスが程いいのだ。
 勉強面や仕事では誰よりも要領が良いようでいて、ふとした瞬間や私生活の場面となると途端に天然ドジっ子が顔を出す。
 そこには芸術的なあざとさすら感じ、男としても錆兎は好ましく感じるのだ。可愛い、その一言に尽きる。
 今も目の前で、はふはふと口呼吸を繰り返す義勇が、一生懸命に自分のよく分からない要望に応えようとしてくれていた。
 恥ずかしさも押し殺せず、良いとは言っても首元まで赤くして、妙に肉付きの良い下半身を強張らせながらプラグを出そうと踏ん張る。
 揺れる尻を前に錆兎は良い眺めだとその光景を網膜に焼き付け、下着からは限界も近いペニスを無言で取り出した。恋人の痴態によって獣の口から滴る涎のようにカウパーがダラダラと溢れ、竿には太い血管が走る。赤黒く充血したペニスは、凶悪なほどに張り詰めていた。
 ふー、と錆兎は深く鼻から息をつき、今にもプラグが抜けそうな後孔を凝視する。
「ぃ、ぐ……っ♡」
 呻き声にも近い、義勇の声。
 直後、肛門付近の赤い粘膜が捲れると同時に、思いのほか重みのあるガラス製のプラグが義勇の軽い絶頂と共に勢いよくひり出され、白いシーツの上へと落下した。
 義勇の体液と注いだローションに濡れたプラグはテカテカと光ったままシーツの上を転がり、その傍では脱力し、弛緩した義勇が四肢を投げ出して肩で呼吸を繰り返している。思った以上に多くの体力を持っていかれたのだと錆兎は察し、労わるように今もぽっかりと開かれたままの赤く腫れぼったい後孔の縁を指先でなぞってやった。
 開かれた肛門は中々閉じず、それどころか口を開けて錆兎を待っている。
 プラグで多少手前の方を刺激され、解れたとは言えど、義勇が一番欲しいところにはまだなにも触れていない。
 義勇は無言のまま錆兎の体温で肉輪の縁を撫でられ続け、それだけでも心地いい甘イきに達してしまうほど完全に仕上がってしまっていた。
「よく出来ました」
 優しい、錆兎の声だ。義勇は意識をやってしまいそうになるのをなんとか耐え、重い腕を持ち上げると、撫でられている己の後孔に伸ばす。
 褒美をねだるように、ちゅぷっと濡れた音を立てながら人差し指と中指を挿入すると、そのまま左右に開いて、挑発的に中の柔らかくなった粘膜を錆兎に見せつけた。
 二人に、言葉はない。
 どうぞ、使ってくださいと言わんばかりの光景。
 据え膳食わぬはなんとやら、とはよく言ったものだと男は思いつつ、錆兎は誘われるがまま大きく張った亀頭を雄を待ち侘びる後孔へとあてがう。
 くる、来る、と義勇はずっと欲していた熱をそばで感じて、期待から中をうねらせ「はやく」と急かそうとした瞬間。腰を掴んで持ち上げられると肌と肌がぶつかる音がして、とっくに降りてきていた結腸を一気に抉られる。
「あれ、また吹いたのか」
 太ももが、足が、知らぬ間に濡れていた。スカートも水分を含み、やや重みすら感じる。
「あーすご……中キッツくて追い出されそうになんだけど。イきまくってんだろ義勇」
 上から、自分よりも遥かに上回る体重がかけられる。
 太い腕が胸の方に回されて抱きしめられ、いつしか身動きも取れない、密着した寝バックの体位となっていた。激しいピストンではなく、中の肉を捏ね回すようなしつこく短いストロークに義勇は幾度となく強制的な絶頂へと追い込まれ、脳がゆだる。
 足先をピンと伸ばし、ただただ粘膜で錆兎を奉仕するしか手段は残っておらず、結腸を抜かれるたびに端正な顔が乱れて情けない声が漏れていた。
「……可愛い」
 耳元で錆兎が笑うものの、その笑みに余裕などない。
 気を抜くとすぐに出してしまいそうになりながらも、飽きることのない義勇の名器を隅々まで味わいたくて、男は奥歯を噛み締めつつもなんとか耐えていた。
 肉輪はキツく、一見侵入を阻むようではあるが一度くぐってしまえば手前の粘膜は蕩けるように柔らかく、嬉々として雄を歓迎しているのが分かる。やがて、誘われたその先で待っているのは包み込むように締め付けてくる凹凸の大きな肉襞であり、蠕動するそこを問答無用に亀頭で抉りながら到達した結腸では、待ち侘びていたのか精子を絞るように吸い付いてくるのだ。
「なあ、ゴムしてないの気づいてる?」
 しつこく、最奥の結腸の手前で緩く亀頭の抽送を行う。必死に吸い付いてこようとしているその動きは射精を促すもので、義勇が何も言わずともどうされたいのかがすぐにわかった。
「サンタさん、オレにいいもん色々くれたからなぁ……今日はお礼にいーっぱい中出してやろうな」
 義勇がここまで堕ちた責任なら、錆兎は喜んで取るつもりである。
 言葉の意味を理解できているのか否か、それすら定かでない義勇を押さえつけた状態で、精液を欲する結腸を目掛け突き上げるようなピストンが突如始まった。
「あ……あっあ、ああぁ、がっ♡ ……っ、……〜ぅ、あッ、ひ、ぃ♡ ぉっぐ♡」
「ん……ッ、は、はは……ケツん奥で先っぽ吸って、そんなに嬉しいかよ」
 いっそ、暴力にも近い。
 錆兎の陰毛が後孔に擦り付けられるほど密着し、そして腰を引かれて、すぐに叩き込まれる。
 無意識に逃げようとしているのか義勇は足をバタバタとさせながら「ゆるして」と舌足らずに助けを乞うたが、それらが本音でないことを見抜いている錆兎が止めるはずもない。深すぎる快楽を前に、義勇が否定的な言葉で回避しようとする癖があるのは、長い付き合いで分かりきっていた。
「可愛い。お前はほんと、可愛いなぁ……」
 あーだの、うーだのと意味のない言葉の羅列を並べる義勇がグズるのもお構いなく、錆兎は満足げに言う。
「出すぞ、一回目。ちゃんと締めてろ」
 こればかりは拒否権など、どこにもない。連続で迎える結腸での絶頂は叫び出しそうなくらい強烈で、達するたびに脳細胞が死んでいくんじゃあないかとすら思う。
 臍の下、ありもしない子宮が痛いほど疼いて、身体の内側すべてが己を押さえつけてくる雄に発情し、子種を今か今かと待ち侘びていた。
 義勇は苦しみを伴うほどの快楽の中でも幸せそうに笑みを浮かべると、宣言通り隙間なく腰が押し付けられ、身体が貫かれたような衝撃が走る。
 流し込まれる熱量に対し、義勇は言葉すらも失った。
 受け入れる側の身体に多少なりとも負担がかかり、考慮すべきリスクもあるという理由もあって、かれこれ数ヶ月ぶりに注いでもらえた精汁。
 先ほどまでとは比べ物にならない、身体の芯まで溶かされる絶頂に義勇は指先すら動かなくなるものの、錆兎は汗が滴る前髪を掻き上げて、余韻に浸る間もなく早々に腰を引いた。
 力の抜けきった義勇の身体を仰向けにさせ、唾液や涙でグチャグチャに乱れてもなお端正な顔を見下ろし、錆兎の手が綺麗に拭って、甘やかすようにキスをした。
 奥の方でしっかりと孕むように注いでやったため、出された精液もなかなか降りてくることはない。中に出した子種を指などで掻き出す素振りもなく、錆兎は義勇に唾液を飲ませて「次、こっちな」と言うと再度、足の間に割り入って正常位で挿入を果たした。
「……は……、ぃ……♡」
 錆兎の舌に吸い付き、義勇は気怠げに太い首へ腕を回す。

 まだまだ、今夜のサンタ業は終わりそうになかった。