それじゃあ、また来世で。 - 2/3

 鳴り止まない電話は、きっと己の専属マネージャーからのものだ。
 電話の内容はおおよそ、察しがつく。取材だのコマーシャルだの、それらの撮影スケジュールがどうのこうのといった、非常に退屈な話についてに違いなかった。
 人の目を引く、やけに顔立ちが整った青年はあくまでも日本を代表する若き体操選手であり、彼としてもアイドルだのモデルだのになった覚えはない。だというのに、やがてはランウェイでも歩かされる勢いでその手の仕事が舞い込んでくるため、青年は肩を竦めていた。
 なぜ、体操選手が海外ブランドの香水のコマーシャルへ出る必要があるのかと。
 とは言え、だ。目立つことは、昔から嫌いじゃない。
 ランウェイでもレッドカーペットでも、歩く必要があるのなら青年は肩で風を切りながら歩いてみせる。そして、己が歩けば誰よりも様になるだろうという確かな自信も実力だってあった。
 だが、どれだけ結果を出そうと、どうしてもなにか一言を言いたがるやからというのは湧いてくるものであり、以前にアイドル気取りの調子に乗ったガキと揶揄してきた記者の首を絞めてやった一件については、青年は今でも反省などしていなかった。
 唯一悔いているのはあれ以降、ジャパンの狂犬などという泣きたくなるほどダサい二つ名で呼ばれるようになってしまったことくらいだろう。
 この珍事を受けて父は腹を抱えて大笑いしていたが、一方で母からは忍耐が足りないと思い切り叱られたものだ。ジャパンの狂犬も、実家に戻ればただの子犬となる良い例である。
 ご先祖様も呆れていると母に言われ、一方で宇髄の直系である父は「いや、むしろよくやったと大喜びしてると思うぞ」と余計な口を挟み、その後は父も息子と仲良く母に説教を喰らった。
 あれ以降はスポンサーも入れ替わりが起こったりと慌ただしかったが、お陰で望んでいない仕事は減り、競技に集中して取り組めたこともあって悲願の金メダルを掴めたのだ。しかしそこまで華々しい結果を残してしまうと彼を取り巻く環境はあっと言う間に元通りとなり、今やひっきりなしにマネージャーからのスケジュールに関する電話だのメッセージだのがスマートフォンを震わせ、青年は辟易していた。
 才能のあるイケメンはつらいねぇと、この男が言うと自惚れにもなりやしない。
 こうも慌ただしいと、デジタルデトックスが必要だ。青年はそれっぽい口実をつけてから問答無用でスマートフォンの電源を落とし、マネージャーには何も告げずに住んでいるマンションを後にすると、都内近郊にある無駄に大きな実家へと転がり込んだ。いつもは海外に飛んでやるのだが、今回は奇を衒って実家にしてみたのである。名付けて、灯台下暗し戦法だ。今ごろ、慌てふためいたマネージャーたちはマヨルカだかマルセイユだかを探し回ろうとしているに違いない。
 ざまあみろだ、青年はほくそ笑んだ。
「天満、あんた帰ってきたんならこれ冨岡さんちに持ってってよ」
 若かりし頃にはモデルだか女優だかで派手に名を馳せた母も、実業家である父との結婚を機に芸能界を電撃引退して久しく、いまや八人の子供を育て上げた肝っ玉母ちゃんであり、それでも衰えないプロポーションと美貌は定期的にインターネット上で話題となっては世間を騒がしている。
 そんな母に電車で数駅のところにある親戚宅へ急遽おつかいを頼まれた天満と呼ばれた青年は、実家で飼っている懐っこいミニチュア・ピンシャーに構いながら気だるげに顔を上げた。
「えぇ〜いいけど。なに持って行くんだよ」
「スイカとシャインマスカット」
「げーっデッカいスイカ! バカだろ! 重! ガレージに腐るほど停まってる親父の車どれか貸してくれ」
「ダメよ、全部パバの大事なコレクションだもの。どうせあんた擦るでしょ、電車で行きな」
「擦んねぇよ、なんで免許取り立ての頃にやらかした話をいつまですんだよ」
「あーもう、うるさいうるさい。つぎ反抗したらお母さんがマネージャーさんに連絡するからね」
 頼んだわよ、と言い残した母は美しいネイルが施された白い手を女王のように優雅に振って、リビングを後にした。残されたのは大きなスイカと、シャインマスカット。項垂れる天満に、その手を舐め回す愛犬のみ。
 あの母のことだ、逆らえばマネージャーに連絡すると言うのはただの脅しではないことくらい、二十年も息子をしてきた天満は嫌と言うほど分かっていた。クソババア、と心の中で毒づきはしても決して声に出さないのは、後が怖いからの一言に尽きる。
「……は〜……行くかぁ……」
 どうせ冨岡家へ向かうなら、このくたびれた心も癒されに行こうと、天満は何度目かのため息をついてスイカよりも重い腰を上げた。まだ遊びたそうにしている愛犬を撫でて、弟か妹のどちらかが放ったままのキャップを勝手に拝借して深く被り、最低限の身なりを整えて家を出る。 
 スウェットのポケットにねじ込んだ財布、腕に下げたビニール袋にはシャインマスカット、両手には巨大なスイカを抱えた男が電車へ飛び乗って、数駅先の親戚宅を目指した。
 今も親交が続く冨岡家は、煌びやかで派手なものを好む宇髄家とは打って変わって、とても和やかで堅実な一家である。年末年始など、各地から大勢の親戚連中たちがこぞって集まる際にも冨岡家だけは周辺にホワワンと花が舞っているほどで、かつては天満も実家の騒々しさに疲れた際には何度か冨岡家へ避難したことがあった。
 宇髄家と冨岡家に、遠縁とはいえ一応の血縁関係があるとはどうにも信じられない。しかし家系図を辿ると、確かに曽祖父あたりの世代で宇髄家から冨岡家に養子として出された者がおり、そこから両家に関係が生じて今日こんにちまで懇意にしてきたことは確認できるのだが、にわかには信じ難いことだった。
 ──そもそも、どうして宇髄家は冨岡家に我が子を養子に出したのだろう。
 当時は養子だのなんだのは珍しくもなかったのだと言われたら、それまでなのだが。
 天満には、不意にそんなことが気になる瞬間があったのだった。

 ◇

「──あ! あー! 天満ちゃんだ!」
 無事に冨岡家へと到着し、チャイムを鳴らそうとした際に背後から飛びつかれた天満は、危うく抱えたスイカを落としそうになる。どうしたの、なんで帰ってきたのと天満の背中にしがみつきながら足をパタパタと揺らすのは、幼き冨岡家の長男であった。
「おいっす~義一。ちょびっとでかくなったか?」
「むふふ。一センチ伸びた」
「マジでちょびっとじゃねぇかよ」
 跳ねた黒い癖っ毛と、黒目がちで大きな目。それに対してやけに小さな鼻と口も相俟って小動物みのある少年、義一はいつも遊んでくれる大好きな親戚のお兄ちゃんが突然現れたことにより、興奮が抑えられない様子で、はち切れんばかりの笑顔を浮かべると全身で喜びを表現してみせる。
「ね、ね、いつまでいるの? ずっといるの? うち住むの?」
「話が派手に飛躍しすぎだろ、盆終わったらフツーに帰るわ。てか降りろ、天満ちゃんがせっかく持ってきたスイカ落としちまうだろうが」
「ね〜クリスマスまでいようよ〜いっしょにサンタさんに手紙書こうよ」
「話聞けやクソガキ。振り落とすぞ」
 親戚の子供にここまで懐かれるのも嫌な気はしないが、相変わらず義一の愛情表現は子犬並みに激しい。学校の友達にも似たような距離感で接しているのだろうかと心配になるが、こう見えて人見知りなところがあるシャイな義一なので、恐らくは大丈夫なのだろう。
 気を許した友人相手であれば分からないが、義一と親しくなるくらいだ。その辺の重さ﹅﹅も許してくれる子に違いないと、天満は考えながら問答無用で背中の義一をとりあえず振り落とす。
 いったーい、という情けない声が下から聞こえた。
「あまり大人を嘗めるなよ」
「楽しかったから今のもっかいして」
「ふざけんな」
 懲りずによじ登ろうとしてくる義一に、ぎゃーっと天満が悲鳴をあげているところで冨岡家の玄関扉が開く。そこには揺れる黒髪を上品に結い上げた、夏らしく涼しげなノースリーブのシアーブラウスとマーメイドスカートに身を包む美しい女性がおり、「義一、誰と話してるの」と不思議そうに顔を覗かせていた。
「……あら? 天満くんじゃないの、帰省のタイミング被ったの久しぶりね」
 彼女は義一よりも一回り以上は歳が離れた姉であり、そして冨岡家の長女にあたる蔦乃つたのである。天満よりも少し歳上で、凪いだ海のように穏やかに微笑む彼女の周囲には間違いなくマイナスイオンが漂い、冨岡家特有の透明感溢れる無駄のない整った容姿は親戚ながら目を見張るものがあった。
 義一とじゃれ合っていたのを、スッと姿勢を正す天満。その背中に引っ付いていた義一が再び振り落とされ、「うぎゃ」という鳴き声と共に地面へと転がった。
「この前の大会も凄かったわね。家族みんなで応援してたのよ」
「かっこよかったっしょ〜さすがに惚れた?」
「あはは、惚れないわよ」
 天満が得意とするこの軽口も、彼女にはどうも通用しないらしい。わざとらしく唇を尖らして拗ねたふりをする天満に、蔦乃は「元気そうでなによりだわ」と相好を崩す。
 一時期は記者の首を絞めただのカメラに向かって中指を立てただのと、なにかと騒ぎになっていたので、いくら明るい天満でも多少は落ち込んでいるのではないかと心配していたのである。だが、久しぶりに会った彼はいつもの天真爛漫で明るい天満であり、なにもかもが杞憂であったようで蔦乃は胸を撫で下ろした。
「あ。これ、シャインマスカット。お袋が持って行けって。スイカは重いし俺が玄関おいておくわ」
「ありがとう。重かったでしょう、天満くんもよかったらうちでゆっくりしていってね。父さんと母さんは二人で出かけてるから、私の方から連絡しておくわ。きっと、二人とも天満くんに会えて喜ぶわよ」
「うへえ、助かる~久々に実家に帰るとあれやこれやうるせぇのなんのって」
「まあまあ。おじさまもおばさまも、天満くんが心配なのよ」
 ビニール袋に包まれた大粒で瑞々しいシャインマスカットを蔦乃が嬉しそうに受け取り、ドアを開けて天満を冨岡家へと迎え入れる。
 閑静な住宅街でどっしりと佇む、和モダンな平屋建て。庭に植えられたシンボルツリーのヤマボウシが夏の風に吹かれ、天満を歓迎するように葉を揺らしていた。
「義一。お姉ちゃんはちょっとお買い物に行くけど、天満くんは疲れてるからゆっくりさせてあげなさいね。わかった?」
「うん!」
「ふふ、義一は良い子ね」
 言われたそばから玄関で靴を脱ぐ天満の背中によじ登る義一は、大らかで優しい両親と美人で面倒見の良い姉に目一杯可愛がられ、今日も今日とて自由な甘えん坊である。
 身支度をしにその場を離れた蔦乃の背中を天満は横目で追って、背後に張り付く義一に対し、声のトーンを抑えながら「おい」と声をかけた。
「蔦乃ちゃん、まーた美人になったな」
「お姉ちゃん彼氏いるよ。この前ね、家に来た。パパが一番緊張してて、ママはニコニコしてて苺いっぱいのケーキ焼いてくれた。お姉ちゃんと高校生の時から付き合ってたんだって」
 真一文字に口を結ぶ天満と、小首を傾げる悪気のない義一。
「彼氏、俺よりイケメンだった?」
「天満ちゃんよりね〜ちゃんとしてる人だよ。優しいし、一緒にゲームしてくれるし、宿題も教えてくれるの。天満ちゃんは、ちょっといぢわるだもんね……」
「泣かすぞお前」
「泣かないもん」
 単純に親しくしていた親戚のお姉さんに彼氏がいたというのは、それなりに寂しいものがある。
 しかし、あれだけ別嬪なら彼氏くらいいるわなぁと、脱いだ靴を揃える天満も一旦は納得。その後は義一に腕を引っ張られながらエアコンの利いたリビングに通され、大きなソファへと吸い込まれるように腰掛けた。
 冨岡家は、静かで良い。このままうたた寝でもしそうな勢いだが、いそいそと隣に座った義一に身体を揺すられて、そう言えばこのちっこいモンスターがいるのだったと思い出した天満は目を瞑ったまま「なんだよ」と素っ気なくも応えてやる。
「俺もね、好きな子できたんだよ」
「マぁ? おいお〜い、どんな子だよ」
 面倒くさそうに相手にしていたのを一変。義一の口から「好きな子」という単語を聞くや否や、天満は楽しそうな表情を浮かべて身体を起こす。
 姉に負けず劣らずの可愛らしい顔をしている義一は、外では人見知りでやや内向的な性格ながらも、女子からの人気は昔から根強いと伺っている。バレンタインの時期には小学校のロッカーだけでなく家のポストへもチョコをねじ込まれることがあり、幼稚園児のころには自称・義一の嫁が十人以上はいたとも。
 そんな義一だが、どれだけ可愛い女子から好意を寄せられようと、振り向くことは一度もなかった。たとえ身内に対して甘えん坊で懐っこくとも、義一はこと﹅﹅恋愛においては奥手で淡白な子なのだろうというのが、今まで義一に抱いていた印象である。
 それがどうしたのか、思いも寄らない義一の初恋の予感に天満も兄貴分として楽しくなってしまい、小学生の恋バナであろうと意気揚々と耳を傾ける。
「ないしょね?」
 照れくさそうに義一が、天満に耳打ちする。
 義一が好きになる子、とはどんな子なのか──天満も胸を弾ませて言葉を待ったのだが。
「……ピンクでね、ふわふわで、やさしくて、泳ぐの速くて……宇宙で一番かっこいい子!」
 きゃっ、言っちゃった、と言わんばかりに顔を手で覆って身悶える義一。その隣で、並べられた情報を噛み砕きつつ脳内で整理する天満。
 ピンクでふわふわの時点で、もはや結びつくのが人ではない。毛深いのだろうか、ならば猫か犬かと思ったが、どうやら泳ぐのが速いとのこと。そういえば、バハマの方では豚と泳げるビーチがあった。確かに豚はピンクで泳ぎもするが、しかし毛深くはないのである。
 いっそう混乱する天満。
 思考が停止し、義一の顔を見つめた。
「……もしかしてプリキュアとかの話してる?」
「天満ちゃん何の話してるの?」
「俺のセリフだよ」
 マイペースで天然な小学生に振り回され、さすがの天満もお手上げ状態である。
「あとでねぇ、うちに来るんだ。今日お泊りして一緒に庭で花火する! 真菰ちゃんも呼んだんだけど今日は法事ほーじで来れないらしくて、だから今日はその子と二人なんだ。天満ちゃん夕方までいるなら、花火パーティー入れてあげるからね」
「天満ちゃんは蚊に刺されるのが嫌だから行きませ〜ん、無理で〜す。ぴっぴろぴー」
「つまんなーい! つまんないつまんな〜い!」
 くだんのピンクのふわふわは、このあと家へ来るらしい。ならばあれやこれやと考えるよりも直接見た方が早いかと、天満が再びソファに身体を預けて目を瞑るとインターホンの軽快なチャイムがリビングに鳴り響く。
「あ! 来た!」
 パアッと顔を綻ばせた義一が、ソファから飛び降りて弾むような声色で応答すると鼻歌を歌いながら玄関へと向かった。
 どこから見ても、浮かれている。義一はピンクのふわふわに、完全にほの字﹅﹅﹅であった。義一が、二足歩行の巨大なピンクのハダカデバネズミでもつれて来たらどうしようかと急に不安になって、天満はソファの背もたれから身体を起こすとリビングの入り口を警戒するように凝視する。
 近づいてくる楽しげな話し声。義一の玉を転がすような笑い声に混じるのは、同じく少年と思しき声だ。
「天満ちゃん!」
 勢いよく開け放たれるドア。
 満面の笑みを浮かべた義一が誰かの手を引いて、天満の前へとやってくる。
「──この子ね、錆兎って言うんだ!」
 力強く義一に手を握られたままの少年と、天満の目が合う。光を反射する輝く淡い宍色の髪に、ハッキリとした目鼻立ちは幼いながらも精悍で、けれどその眼差しや表情には確かな暖かさを帯びていた。
 錆兎という、他ではあまり聞くことのない音の名。後から聞けば、刀を腐食から守る黒錆のように弱きを守れるようにと、そしてどんな未来にも兎のように飛躍して欲しいと言う実にめでたい意味合いが込められた、なんとも洒落た名前であるそうだ。
「あっ、えっと、錆兎って言います。ぎ、義一とは親友で……」
 義一の遠い親戚に、テレビでも見たことがある体操選手の宇髄天満がいることは本人からも聞いていたので知っている。天満ちゃんと呼んで懐いているほどには、親しくしていることも。
 しかしいざ、有名人である本人を前にすると、いくら肝の据わった錆兎とて緊張はする。コマーシャルや雑誌にも引っ張りだこで、駅前の広告にだって天満の顔がデカデカと掲載されている時期があったくらいなのだ。
 それに、先ほどから天満が己の顔を穴が開くほど凝視しているので、背中に変な汗が伝った。なにかしてしまっただろうか、もしや義一と手を繋いでいるのが良くなかっただろうかと、知らぬ間に握られていた手をやんわり解こうとしたが、すかさず義一が指を絡めてきて離してもくれずに、少年は完全な八方塞がりとなる。
「……あれ……あれ~……あれ?」
 錆兎の困惑など露知らず。天満は首を傾げて錆兎の名前を脳内で反芻し、そして義一と錆兎の顔を見比べて、もう一度首を傾げた。
「天満ちゃん、どうしたの? 錆兎はあげないよ?」
「いや……ガキンチョなんざ別にいらねぇが……」
 この世には──記憶の遺伝というものがあるらしい。
 昔に読んだ本に書いてあったのか、映画で観たのか、はたまたドキュメンタリーで知ったのかは思い出せないが、そういうものがあることを天満は知っていた。
 なぜ、そんなことを今になって思い出すのか。それは、脈々と受け継いだ遺伝子に強く焼きついた誰かの願いが己の内側で、満足げに大笑いしている気がするからである。
 子煩悩で派手好きの愛妻家な父や、祭り好きで衰えを知らない元気な祖父の声にもよく似ていたが、少し違う。もしくは自分に瓜二つなような気もするが、天満はそれが誰なのかは知らない、分からない。
 それなのに。
 めでたし、めでたしと言うやつだ──ふと、二人の少年を前にそんな愉快な言葉が浮かぶのだ。
「……なんか……よく分かんねぇけど。すっげぇホッとしてる」
 これは義一が連れてきたピンクのふわふわとやらが、泳げる豚や巨大なハダカデバネズミではなかったから安堵しているわけではない。
 残った小さな火種を、絶やさず焚べることが出来たような達成感に近いであろう。

 なぜか半笑いで小さく拍手をしてくる天満に対し、義一と錆兎は顔を見合わせて、同時にキョトンとしていたのだった。