さらば、青春

「卒業したらさあ」

 彼は丸めた帳面を片手に僕を見た。
 誰もいない、夕暮れだけが僕達を見つめる一斤染に塗り替えられた寂然たる教室の窓際の席で、其れは言葉と云うよりも只の空気の振動として鼓膜を震わせる。
 聞き慣れた聲だ。
 彼とは、もう小学生になる以前から互いを名前で呼び合っていた。俗に云う幼なじみという間柄で、三年前、成り行きで志望した高校も同じだった。
 そんな僕達も気付けば此処を去らねばならない歳になっていて、いやはや、時間が過ぎ去るのは早いものだなあと。自分が今、取り掛かっている作業も卒業アルバムに関するもので、其の中にあるクラス毎の自由制作ページ、所謂クラスページと呼ばれる欄のレイアウトを考え乍ら、視線に応える様に彼と目を合わせた。
 入学して早々のフレッシュマンキャンプにて、クラスメイトから“しっかり者”という大雑把なレッテルを貼られ、半ば押し付けられた様な形で学級委員長となり、それなりに多忙な日々を送る羽目となった春の事。
 やる事が詰め込まれているのは嫌いじゃあ無い。拒む理由も無く、二つ返事で引き受け、気付けば三年生である現在では生徒会長と云う役目まで担う事に。
 けれど、其の役職も夏休みを終えた二学期の始めに、二年生に引き継がれたのだが。僕ら三年生は、受験を前に引退。そう云えば僕も二年生の頃、こうして先輩に任されたのだっけと茫漠な記憶が蘇った。
 思い返すと日々が忙しなかったのは一年生の頃からだ。授業が終ってもやる事は山程あって、対する君は違うクラスだと云うのに、そんな僕を態々教室まで迎えに来てくれたりしたのだ。
 驚いた。てっきり、人から好かれ易い君は出来立ての友人達と先に帰るとばかりに。
 入学して半年も経っていないのに、廊下で擦れ違う同級生達に「バイバイ」と矢鱈と聲をかけられている君は、其れらに適当な返事を返し乍らも「帰ろ」と、僕だけに笑いかけた。
 可笑しな奴だ。約束なんてしていないし、迎えに来いとも云っても居ない。
 当然だとでも云う様に、僕を待っていた。
 だが、まあ、正直嬉しかったのだ。
 小学校や中学校は近隣の顔馴染みばかりで、一緒につるむグループも固定されていたが、各地から人が集まる高校は違う。お互いに通うコースが違うのだからクラスが違うのは当然で、何となくだが、嗚呼僕らは疎遠になるなと。言葉にはしなかったが、そう思ったのが本音だ。
 性格はまるで違う僕達が新しい人間関係を築いていく中で、全然違うグループに属するのは目に見えていたし、幼なじみと云っても「ずっと一緒にいよう」なんて気色の悪い事を誓い合った訳でもないのだから、離れるのが当たり前とさえ思っていた。
 通学途中の信号で偶然会って「最近はどうだ」と慣れ親しんだ会話を交わし、校門をくぐるや否や互いに手を振って違う友人達の元へ行って。
 だって、男同士なんてそんなもんだ。
 まさか迎えに来るなんて思ってもいないのだから、僕は委員の仕事をするべく居残る気満々で、帰る用意なんてしていない。慌てて帰る準備をすべきか、どうか。嬉しさや少しの恥ずかしさが混じり合って、やる事があるから先に帰っていいなんて不器用に彼を帰らせた。
 廊下を歩く背中。何人かの男女が入り交じった賑やかな集団が彼の姿を見かけると肩を叩いて、楽しげに何処かへ行こうと誘ってるのか、幼なじみも笑っていた。
 僕が想像していた感じだ。そう、こんな感じ。
 遠くの世界を眺めている気分になった。
 釦なんて、一番上までとめて。制服のお洒落な着崩し方なんて知る訳ないだろう。ズボンで見えない靴下でさえも校則の指定通りの長さで、携帯も電源を切って、鞄の中に入れて。髪も地毛のまま、ピアス類のアクセサリーも無し、爪は常に短く清潔に。
 他の人も変だと思ってるさ、君と僕なんて。
 ねえ。
 年相応に服や身成を着飾る事に興味を持ち始める君と、何一つ変わらない野暮ったい僕とで、いつまでも二人三脚なんて少し恥ずかしいじゃあないか。
 なんて自分で云って、途方も無く馬鹿に思えた。
 人気も無くなった校舎で、気付けば夕陽も暮れていて。その日は何も手につかず、殆ど進んでいない作業を結局家に持って帰ろうかと、重い鞄を肩に掛けて教室の鍵を返す為に一階の職員室へ向かう途中、もっと馬鹿な事が遭った。
 帰った筈の君の姿が見えたのだ。
 驚きと、物云えぬ安堵。何してるの、と聲を掛けたら、昔から変わらない笑顔で笑って。
 帰れと云われて帰ったら、お前が寂しいかと思ってなどと。この野郎、其の通りだよ、有り難うなどとは勿論云わなかったが、「寂しい訳があるか」の一言できっと何もかもがバレていただろう。
 まだ冬の名残のある寒い廊下で、僕の事を待ち惚けた幼なじみに自分のマフラーを巻かせ、二人で並んで鍵を返しに行った。
 あれから、ずっとだ。待ってくれとも頼んでいないのに、彼はこうして三年間、僕が校内で過ごす放課後の延長線を共に過ごしてくれた。
 吹奏楽部が練習する寂しげな音色、購買部のシャッターが閉まる音、運動部の一寸の乱れも無い掛け声。
 この間、交わす言葉は少ない。それでも退屈だとも云わないで僕を待ち、時々帰路の途中でコンビニに寄って、肉まんを食べてたりして。
 目の前の彼の口から「卒業」という言葉が出て、漠然と此れからの事を想像する。続きを促す様に頷けば、小さな間を空け、ううんと彼は唸った。
「やっぱりいい」
「そうか」
 即答、そして作業の再開。
「こういう時はよくないんだよ」
 僕が握ったペンを取り上げた、ジッとこちらを睨んだ顔を見上げ、君は猫かと溜め息を吐いた。年頃の娘を持った父親の様な気分だ。彼は存外、扱い辛い。
 此処で問い詰めたら「いいって、しつこい」と怒るくせに。けれどそんな曖昧な答えを吐き出すのも、理不尽に不貞腐れるのも、全て僕だけに見せる一面かと思えば可愛げがある様に思える。
 ――頼り甲斐があって、大人で、落ち着いているだって?
 先日の日曜日、君の部屋で。誰かが君の事をそうやって評価してたよと、僕の堅い膝の上で寝転んで雑誌を読む、それこそ猫みたいな君に話せば目を細めて「撫でて」と完全に振った話題をスルーされた。
 僕らは只の幼なじみであるはずなのに、彼は三年生になってから急にスキンシップが激しくなった様に思える。
 というか、彼が、僕に甘える様になったと云うか。
 三年生になってからと云うより、あれは寧ろ。
「卒業したら、なに?」
 取り上げたペンをクルクル回し、僕から目を逸らさない夜空の様な瞳の奥を視線で引き止めた。
「彼女とか作る?」
「どうだろうな」
「作る気ある?」
 そんな事、聞いてどうするのだ。
 此の三年間、そう云った機会が訪れなかった訳でもない。女性にはそこそこ、否、人並みに興味はあったが、自分が誰かと恋仲になった所で——其の先を、想像出来ない。
 告白をされたのは一度じゃあない。周りは僕を完璧だの王子だの何だのと云って持て囃してはいたが、実際は極普通の、ただ真面目に生きるしか能の無い平凡でつまらない男であるのだ、僕は。
 僕は人に過大評価をされるのが苦手で、自分の中の普通をこなしているだけで騒ぎ立てる周りの聲には相当なストレスを感じていたのは云うまでもない。己を下卑するつもりは一切無く、例えるならシャツの釦を一つ留めるだけで大多数の者から感動され、町中から拍手の音が響き渡り、次第にはパレードまで開催される様な気分だ。
 流石、任せて正解だった——其の言葉の裏に、コイツに押し付けていれば何とかなるだろうと云う魂胆が見え見えだったのだから、其れ程でもないよと、気付いていない振りをして都合の良い便利な生徒会長サマを引き受けた。
 大きな賛美の裏には心の底からの感謝なんて一握りだ。
 何でも出来る様に見えるらしい僕に惹かれ、告白をして来た女子から必ず発せられる言葉。
 ずっと憧れだったんです。
 だからどうしたと云うのだ。僕からすればその一言に尽きる。君はシャツの釦を閉じているだけの僕に憧れていたのかと。でも、そんなこと言える筈も無い。
 断る言い訳なんて考えるのも面倒で、好きな人がいるからの一点張りでやり過ごして来た。気持ちは嬉しいと云う言葉もお忘れなく。
 彼女、彼女か。
 此れからも僕は、好意でなく表面上への憧れのみを抱かれ、周りに見せる為の不細工な笑顔を浮かべ続けねば異性から近寄って来てさえ貰えないのかと思うと。
 理想の生徒会長と云う肩書きの裏には、真面目が取り柄のガリ勉堅物野郎という本質が眠っているのに対し、周りは其れを深く捉えていない。こんな嫌味な内面を曝け出しても、僕を好きだと云う変わり者なんて。
 此の先。
「僕の隣に女の子がいて、且つ、ラブラブと云う図を想像できるか?」
「きんも」
 オエ、と肩を竦めて嘔吐く素振りを再現する目の前の親友の腹を軽く殴る。
 痛いと笑う親友に、確かに自分も「無いな」と思ったとは云えず、何がキモいんだと憤慨する風を装う。
「だってお前、彼女の飯の食い方、話し方、歩く姿勢、服装の乱れとか全部指摘しそうだし。絶対マヨネーズかけ過ぎとか云ってキレるじゃん。面倒くさ」
「それは君がいつもいつもマヨネーズをかけ過ぎるから僕に言われてるだけだろ。ご飯の食べ方は自体は……まぁ、綺麗な方だし、文句も無いけど。話し方に至っては敬語は話せない、歩く姿勢は時々がに股になってる。背筋は綺麗だけど、折角足が長くて真っ直ぐなんだから其れを崩すなんて止めた方が良いから僕はちゃんと歩けと言うんだぞ。服装の乱れは擁護の術無し。普段着はいいとして、制服だ、制服。君は露出狂か」
 釦の開け過ぎだ、此の兵六玉。例え彼女が出来たとしても此処まで云おうなんて思ってない。否、でも、云ってしまうのかも知れない。
 けれど僕が彼に此処まで口煩いことを言えるのは、自分も自分で彼には僕の分かり辛い冗談が通じる事に甘えていることが原因であるし、もしも彼女が——彼の様な、人であれば。
 と、其処まで思考がいって、いやいや可笑しいだろうと。友人が彼女であったらなんて、あって堪るかと、ペンを握ったまま返さない親友の方を睨んで「で、言いたいことは何だ」、まさか彼女を作るかどうかだけではないだろうと、まだペンを返さない様子から察して彼を急かした。
「彼女作んないならさ」
「まだ確定した訳じゃあ無いけど」
「作んないなら」
「うん」
 口を開け、また閉じる。ボリボリと、頬を掻いて一息つくと、彼は僕にペンを返してカーテンを引っ張り、其の裏に隠れた。
 冬の真っ赤な夕焼けは顔を隠すのも早い。彼の細い影だけが草臥れた浅い色の布に浮かび上がって、ゆらゆらと揺れる。
「オレと付き合ってクダサイ」
「……どういう意味で?」
「察して下さい」
 彼が、異様に甘える様になったのは僕の進路先を伝えた日からだ。此の高校が在る地元周辺の地域から、飛行機などの交通機関を利用することニ時間程で着く場所に僕の目指す大学はある。
 親友の云い方を借りると、『都会の賢い大学』。
 そもそも、この高校自体が進学校であって、皆それぞれに目指す大学はそれなりの所が大半を占める。僕自身がこの高校に進路を決めた時、近所の工業高校にしようかと迷っていた筈の彼が進路希望書に僕と同じ高校名を書いていた時は目を疑った。
 正直、無理だろうの一言。それは担任の教師も同じであったらしく、どうにか云ってくれと僕に頼んで来る始末であった。
 それでも彼は頑固だった。僕が、進路先を考え直してみたらと、提案しても「嫌だ」しか言わない。中学生時、彼の定期試験の平均点は六〇から七〇、とは云え此れは彼が得意とする理数科目で稼いでいるようなもので、公民や古文と云った教科は壊滅的と比喩して良い様なもの。
 受験科目の選択は理数選択を重点に置き、後は穴埋めをする方式でやれば不可能でもないだろうかと頭の中での計算の末、僕も其の姿勢を見込んで彼の勉強に付き合うことにした。
 僕が志望した特別進学のコースを共に合格する事は出来なかったが、併願のコースにはなんと彼は滑り込みで合格。自分の合格には薄々の確信と学力の自信もあったので不安は余り抱かなかったが、当時頭にあったのは親友の合否ばかりであった。
 一緒の制服で通える、と彼が笑った。そうだな、と、喜ぶ彼につられて僕も笑った。
 あれから三年。次は、大学。
 彼は家庭の事情もあり、大学進学への意欲は少ない様に見えた。やりたい事はあると話していたが、其れが何なのかを詳しくは知らない。
 けれど四年制の大学には通えないと、彼が話した後日に僕の希望する進路先を伝えた。
 そうか、お前なら楽勝だろ。笑った彼と、同じ制服に腕を通して笑っていたあの頃の彼とじゃ全く違って見えて、今度こそ、僕達は疎遠になるな、と。
 だって、ずっと一緒にいようなんて誓い合った訳じゃない。
 どうして彼が僕と同じ高校を、あの時志願したのかは知らないけれど、でもそれは偶々だと思う。無理だと分かっていて同じコースを受けようとしたのも、毎日学食を食べる僕の分の弁当を「ついで」と言って作って来て、一緒に食べようと誘って来るのも、毎日部活もせずに僕の帰りをバイトの無い日は待ち惚け、休日も互いに用事がなければ一緒に過ごそうと家に訪れてくるのも。
 全部、ぜんぶ。
 ——偶々?
「君は」
 カーテンの向こうにいる、彼の顔がある辺りをジッと見つめた。
「僕の事が好きなのか」
 もし、若しも。
 あの彼の行いが全部、僕への好意の表れだとしたら。
 そう考えると顔がほんのり熱くなって来て、君がカーテンで顔を覆ってくれていて良かったと、真っ赤な夕焼けの隣でもぞもぞと動く布の塊を見つめた。
 僕は彼が好き、とか、そういうんじゃなく。気付けば隣にいたのだ。いいや、いてくれたんだ。
 いてくれた彼に僕は、ずっとを誓った訳じゃあ無いのだから、疎遠になると、だって、男なんてそんなもので。僕は一度でも、離れていく彼を追った事は無く、違う、離れたのは僕の方か?
 心の何処かで、追いかけてくる君がいる事を知っていたのかも知れない。
「……よくわかんねぇ。オレ、ホモじゃないし」
 でも、と続く。
「お前の隣に、いたいとか、ちょっと思ったっていうか、ううん。ずっと思ってたから」
 カーテンから、彼が顔を覗かせた。
 夕陽の赤みが、真っ赤に染まった顔の赤みを強調させ、夕陽が赤くて良かったなんて言えない程に彼の白い肌が火照る。
「大学生になっても、お前ン中の真っ黒な部分を慰める事が出来る、特別は、オレが良い」
 朝にセットしたきりで、放課後の今となっては後れ毛が垂れて、冷たく、優しげな冬の風にじゃれる様に君の髪が舞う。
 今の今まで、只の親友としてでしか見てなかった筈の彼の、震える聲を聞いて可愛いと思うのは現金だ。
 気付かせて貰った、のだろうか。僕はゲイじゃない。でも、告白とも云えない彼の申し出に此処まで胸が小踊りするような感覚が新鮮で。
 何が“恋”かなんて、初恋もまだの僕には分からない。当たり前の様に傍にいた君と、ずっと一緒だったから、他の大切なんて知らなかった。知らなくても良かった——のは、なんで。
 それは。
 ガタリ。椅子を引いて、僕の方が立ち上がると彼は肩を跳ねさせ、少しだけ後ろに下がった。其の手を逃がすか、と云わんばかりに掴んで、目の前の、見慣れた幼なじみに手を伸ばす。頬は少しかさついていて、触れた場所は色と反して冷たかった。
 僕達以外の誰もいない教室は、まるで、世界に僕達二人が取り残されたみたいに瞳に映る。
 綺麗だ。君の瞳に映った僕も、赤のシルクに包まれた様に真っ赤じゃあないか。
 気持ちの整理もついていないのに、若い衝動だけが僕を突き動かしていて、身を乗り出すと困った様に視線を泳がせる彼が愛おしく思えた。
「遠距離になるだろう」
「……そういう問題が先なの?」
「うん、なんか、厭な気がしない」
 頬に伸ばした手に擦り寄った彼に、君は猫かと再度云いたくなる。
 そんな可愛い行動は、衝動だけで動いている今は危険だから止めろと言いかける理性を、まあ良いじゃないかと僕の中の小悪魔が囁いて、顔を一気に近づけさせた。
「遠距離でも、会いに行っても良い?」
「君は地元から出る気はないのか」
「だって行き場も金もないし」
「僕のとこにしとけば」
 卒業したら。
 僕は多分、このまま順調に行けば晴れて大学生だ。君の想像通りの、普通の大学生だろう。自分でバイトし乍ら、汚いアパートでも借りて、細々と勉強に取り組むだろう。
 其れは高校でも、同じだった。足りないのは、君だけ。
 彼女が出来たら、君のいなくなった穴埋めは出来るのだろうかと考えるけれど、僕の全部を知った上で何年間も鈍感な僕を追いかけて来てくれて、待った末、気付かせてくれた様な寛大な人はこの先現れるんだろうか。
 君がいたから、好意を抱いてくれる他の女性に魅力を感じれなかったとしたら、其れは君の責任でもあるし、文字通り、意味通り責任を取って貰わねばなるまい。
 ならば面倒故に適当に云っていた「好きな人がいる」という台詞も強ち間違えでもなかった。
 好きな人が出来なかったのは、既に君の様な人が、余りにも近すぎる場所にいたからだったのかなあ、なんて。
「待ってくれんの」
「気長に待つよ」
「どっちの意味で」
 ネクタイを引っ張って、ペンが落ちた音を聞き乍ら、真っ赤な教室で「面倒臭い」と云って君にキスをした。
 互いに一言も、好きとは告げていない。けれど吐き出される言葉には、もう、そんな小恥ずかしい台詞はいらなかった。
 何年、一緒だったと思ってる。
 いいから早く、そんな戯言なんて必要無い。唇を離した先にいた君は、少しだけ目尻が濡れていた。
 カーテンごと机を挟んで抱き締めた身体が少し冷たかったので、早く帰ってやろうと、進まないアルバムの作業は就寝前の自分に任せる事にした。

 長い間、待たせてごめん。
 卒業したら、其の続きの話しは、別の何処かで。