ひとりあそび - 1/4

自慰という言葉は知っていた。

遊び半分で強要されることは珍しくなかった。
身体を発情状態にさせるプログラムを入れられ放置された時は悲惨で、
のたうちまわりながら自分を慰めた。
気が狂いそうなほど身体が雄を求めて、床に乳房を擦り付けながら後孔に指を挿れ、
監視カメラの向こうにいるだろう人間に泣いて懇願するのだ。
たすけてください、なんでもします、と。

小さな六畳間に敷いた布団の上で、少年はへたりと座り込んでいた。
足を外に折り曲げたいわゆる女の子座りというやつで、男子は通常骨格の構造から難しいのだが少年はそんなことは知らない。
シャワーを浴びたばかりの髪はしっとりと濡れている。
パジャマ代わりのTシャツと短パンは商店街のワゴンで安く買ったものだった。
その裾をぎゅっと掴んで速水を名乗るものは切なく息を吐く。
身体が火照っているのはシャワーが熱かったせい、ではない。じ、と自分の身体を見下ろす。
その目つきは学校にいる時の穏やかな優等生のものとは全く違い、歳不相応な色気を滲ませていた。
身体の、敷布団に触れている部分がじわりと疼く。胸元が切ない。
困ったな。
少年は眉を下げた。もう一回シャワーを浴びればおさまるだろうか。
覚えがない感覚ではない。
だが普通の少年である“速水厚志”として生活している彼にとってはこまりものだ。
自分くらいの年頃の男子が自慰をするのは別におかしいことではないらしい。
5121小隊に来る前に、雑誌を立ち読みして学んだ。
しかし自分のこの感覚は普通の男子とは違うらしいことも知っている。
あんなに、嫌悪していたのに。
雄に犯されたいだなんて。ホルモンの異常からくる気の迷いだ。

Tシャツの布の上から胸元に触れた。学校ではサポーターを巻いて誤魔化しているが、そこにはまだ悲しいくらいしっかりと
“乳房”が存在している。少しは小さくなったような気はするが少年の悩みの種だった。
触れると柔らかい、その頂点の部分をそっと摘んでみる。
「ん・・・っ」
小さく声が漏れた。気持ちいい。
誰も見ているはずはないのに、思わずきょろきょろと周囲をうかがってから少年は自分の服の下に両手を入れた。
包むように揉んで、乳首を指の腹で擦ってみる。それはすぐにぷっくりと固くなり、指先で転がすとくすぐったくじれったい快感が身を震わせた。
「う・・・んん・・・」
きゅっと指先で摘んでみる。走った快感に少年はびくっと身を引き攣らせ唇を噛み締めた。
こんなことをしてると、舞に知られたら生きていけないと思う。
身体の熱は収まらず、乳首を弄ったくらいでは焼け石に水で。身体の奥深い部分があさましく疼くのを感じた。
プログラムを入れられているわけでもないのに。
少年は下着ごと、短パンをずりおろした。小さな自分の性器が目に入る。普通、男はココを慰めて自慰をする。
勃起した男性器を体中に擦り付けられ相手をしていたのだからそれくらい知っている。
でもくったりとした皮を被ったままのそれに触れてみてもくすぐったいだけで、擦ってみても勃起することはない。
薬を投与され妙な器具を性器にはめられ射精するかどうか刺激を与えられ実験されたことはある。
喉が枯れるくらい悲鳴を上げたことは覚えているが、実験の結果がどうだったのかは知らない。
これもそのうち、普通になるんだろうか。
気持ちよくないわけではない。でも。後ろの方が疼くのだ。
腰を浮かせて、手を伸ばす。犯され過ぎて性器のようになった窄まり。指先で触れただけで変な声が出そうになる。
少年は目を閉じて人差し指と中指をそこに突き入れた。
「あぁ・・・ん・・・」
内部は熱くて、指に絡み付いてくる。肉壁を押して指を動かしてみる。しかし細い自分の指ではとても足りない。
少年は寝転ぶと片手で乳房を弄りながらもう片手で後穴の指を動かした。
足りない。もっと奥まで欲しいのに。
「あっ・・・・ん・・・・」
太いのが欲しい。奥まで突いて欲しい。
そんな欲求がぐるぐると脳を回る。なんてあさましい身体なんだろう。
俺はやっぱり、自分で望んで犯されていたんだろうか。
「んう・・・やだよお・・・」
涙が滲む。欲しい、けど、やっぱり汚い大人とセックスなんてしたくない。
嘲られるのも嫌だ。もう嫌なのに。
身体がそれを求めているのが苦しくて涙が出る。
「あっ・・・あ・・・・」
流れた涙をシーツが吸い込む。あと少しなのに、イけない。
荒く息をしながら少年はできるところまで指を挿れた。

今は誰かに強要されているわけでもない。殴られるわけでもない。
でも、この熱はどうすればいいのだろう。
助けてくださいなんて、誰かに頼めない。
『俺が手取り足取り腰取り教えてやろうか?バンビちゃん。言っておくが俺は上手いぞ?』
からかうような男の声が脳裏によみがえって速水はぶんぶんと首を横に振った。
あんなの、ただの冗談だ。